第2話

「なぜ死んでも働くか、ですか。」


「死後に働く事への疑問であれば、そういうものと割り切っていただくしかないです。」


「じゃあ死神として働かされてる部分は?」


「何事にも理由があります。」


「何をしたら人間が人間を手にかける仕事をしなければならないのやら……心当たりが流石に無いな。」


生前の行いが原因だとしても、言った通り人間を始末する職に就く道理が分からない。

良い行いはせずとも、悪い行いをしたことは一度たりとも無い。

……あくまで記憶の上で、だが。


「ちなみに……あらかじめ行っておきますが、私に理由を聞いても答えは返ってきませんよ。」


「だよな……。」


「まあ、一つ言えるなら、貴方に課された仕事が人間にやらせると都合がいいっていう辺りでしょうか……。」


「あの世も人手不足かよ。」


人ではありませんがね、と補足しながら少女は笑う。


……いや、全然笑いごとじゃないが。



 川を上る小舟に二人。片方は僕で、片方は恐らく人ではない何かだが、見てくれは人型の少女だ。


勿論聞きたいことは山ほどあるのだが、変なオーラでも出しているのか妙に話しかけづらい。

その上、どうやら本……それもやたらと大きく分厚い物を読んでいるようだが、様子を見るに読書という訳ではないようだ。


数ページ一気に飛ばしたり、逆に戻ったり等。まるで何かを探しているようだ。



 暫くの沈黙の後、口を開いたのは少女の方だった。


「一応、形式的に必要なので幾つか確認する事があります。質問になるべく正直に答えてください。」


「人生の出口調査か?」


「どう認識してもらっても構いません。」


少女の表情や声音の調子は変わることは無く、形式的、事務的に話を進めていく。



「ではまず初めに……あなたの生前の記憶を出来る限り詳細に答えて頂きます。」


「生前……死ぬ前って事か。」


改めて自分が死んでいる事を告げられると、恐らく今は無いであろう心臓が跳ねるような感覚が生まれる。


今のこの体は魂だけ? それとも生身の体? そんな些細ではあるが、答えが出ない疑問に直面して、一瞬思考が硬直する。


「……思い出せませんか?」


「あっ、いや違う。 大丈夫。 ……えーと、何処から話せばいい?」


「詳細に……とは言いましたが、日記のようなレベルで事細かに言われると、いくら人間程度の一生と言えど時間が足りません。名前、年齢……というか享年ですね。あとは彩葉さんのように人の場合、その辺りの詳細も答えれる範囲でお願いします・」


「ん? 名前は知ってるのか……。」


「というより、全てです。記憶の混濁が無いかの確認ですね。」


「なるほど……。」


いわば面接のようなものだろうか。確かに死神……だったか、そういう重要そうな立場に就かせる人の素性は当然把握しておくべきだろう。

……別に希望したわけでもないのにこういう扱いを受けるのは違和感を覚えるが、今更文句を言っても仕方がない。


既に知っているようだし、もったいぶる程の話でもないのでそのまま話す。


「死んだのは……2020年2月の13日だ。丁度20歳の誕生日だったな。かと言って家族に祝われるでも無い日だったけど、別にそれがおかしいって事も無い家庭だったし、何より僕が余り誕生日を気にしてないから普通の日だったな。」


「ふむ……続けてください。」


耳を傾けているようだが、しかしこちらに一瞥する事も無く未だに本を眺めている。


実際の所は分からないが、僕の感覚としてはつい昨日の出来事の話だ。

ただ淡々とその日起こった事を話し、その中で死んだことに対しての質問を二、三投げかけられたのみ。


死の直前どう思ったか? 等と言った胸糞悪い物を想像若干していたが、実際の所は記憶の可能な範囲での詳細なタイムラインの確認程度の物だった。


「……では最後、貴方を殺したその人物が、もし目の前に現れたらどうしますか?」


何の趣向か生まれた日に僕を殺した本人。恐らく終わった僕の人生の中で最も憎むべき相手。

そんな人間が目の前に現れたら?


――そんなの決まってる。


「別に、何もしないけど。」

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