三十五話「暴竜再臨」

吹雪が吹く中、俺達は突き進む。

防寒アイテム、ドーピングアイテム、その他諸々……回復アイテムは他の九人に分ける。この先のステージがあの暴竜のいる場所。


「遂に来たっすね……ここに」


マークスマンの人達は今回が二回目か。

俺はマークスマン達に視線を移動させる。


「よっしゃいつもの感じでぶっ飛ばすぞ!」


「ああ‼︎」


「おらおら何でも来いやぁ!」


いつもよりみんな声を張る。やり過ぎなくらいに。

足元を見る。

八人とも足が震えている。

防寒アイテムを使ってるから寒さで震えるなんて無いはずだというのに。

恐れているんだ。

一度。討伐失敗した経験が頭の片隅でまだ……

声を出しあって、何とかいつも通り振る舞おうと必死に足掻いている。


「それじゃ皆!行くよ‼︎」


ユイの合図と共にマークスマンは生唾を飲み、クロスボウに弾を込める。


俺も装備を整えながら、配信状況を確認する。

まだ配信は始まっていない。時間的にはもうそろそろ……お、来たな。

配信が始まる。そして始まると同時にいつもの三人が入り、その数秒後何人かが俺の配信ページ入ってくる。


「暴竜討伐に行ってくるよ。生きてたらコメント返す。それじゃ……見守っていてくれ、みんな」


マップを跨ぎ、走り出す。


そして大きな影が見える。あれが……

他の九人も敵を確認する。


「あいつだ……間違い無いっす!」


頭から離れない爬虫類のような肌に四足歩行の姿。


「よお、また会ったな」


ヴィアぁぃオォォあぁ!


ビリビリと空間を痺れさせる咆哮が響く。


「総員配置につけ‼︎」


マークスマンのメンバーは暴竜の正面に扇状に広がる。


そしてそのすぐ後ろにユイが操演槍でバフをかける。

そして俺はあるアイテムを手に取る。


「装備、好臭の護符」


装備すると共に居合の構えに入る。

好臭の護符、ユイと共に戦った「露牙鹿ロウガロク」の時にユイが使っていた【呼び寄せ笛】というアイテムの最終形のアイテムで、これを装備しているだけで必ず近くのモンスターは俺を攻撃するようになる。


暴竜はドスドスと地を揺らしながら、俺へと向かってくる。


そうだ、来い。最初の一撃は確実に当てる。


暴竜は頭を振り下ろし、勢いをつけて俺へ頭を振り上げる。

振り上げ、攻撃が当たる。

装備に暴竜の頭が触れた瞬間……俺の胴体へ攻撃が当たる。体がくの字になるほどの衝撃。

今だ!

居合切りのカウンター……『鬼首落とし』


暴竜の左目を切り裂く。そして……そのまま俺は盛大に吹っ飛ばされる。


「ぐはぁ……」


HPゲージを横目に見る。見た感じ、三分の一程度HPは削られている。やっぱすげぇな鉄平の聖符。そしてヤバイな暴竜……。あの軽い攻撃でこんなに……俺の装備の防御力が低いってのもあるが、それでもこれだ。


「最後の主はそう一筋縄じゃいかない……か!」


壁を蹴り、マークスマン達を横切り、そして暴竜の前へ戻ってくる。


「よお、準備は整ったぜ」


ぐィ……ギァいい!


暴竜は鋭い歯を向け、噛みつこうと口を開く。

見える。動きが確かに……

噛みつきを交わし軽く一撃入れる。

暴竜の側面に滑り込み、ここで暴竜の頭部付近から一時的に離脱する。


「今だ!」


赤いエフェクトが出てくる。


攻撃力【大】

妨害阻止


ユイの半径三百メートル以内、俺と『特科』のプレイヤー全員にバフが掛かる。


「一斉に……撃てぇ‼︎‼︎」


八人の銃口から放たれる弾丸は花火のような光りと共に暴竜の頭、前足部分へ打ち込まれる。


グォォオオン!


仰け反りながら頭を振るう。


「リロード!」


よし、リロードだな……

俺は後ろ足へ斬りつける。すぐ暴竜は俺の方へ向く。


「こっちだ!ティラノ野郎!」


そのまま俺は攻撃を挟みながら、こいつを誘導する。また頭をマークスマンの方へ向けさせてまた頭から離れる。

そして八個のクロスボウから放たれる弾丸をまた頭部に放つ。

これがこいつを倒すのに最も効率のいい攻撃の流れ……

もうこいつは完全にた。


俺達が導き出した作戦。

まず俺が常に暴竜からのフォーカスを受け続ける。それによって『特科』の最高火力である操演槍の攻撃力バフに、八人のクロスボウによるクリティカルエリアからの弱点部位への総攻撃。この人数、役職の分配。恐らくこれが俺達の最高火力だ。近接攻撃はさっき斬った感じだとあまり効果的なダメージは入っていないだろう。

近接武器の俺が出来ることは、攻撃をしながら出来るだけ長い時間こいつからのヘイトを稼ぐこと……だかそれも容易ではない。攻撃の速度は風鼬竜フウユガルレベル、一発の重さに関しては今まで戦ってきたモンスター達よりも遥かに強力だ。

俺はまた、

また、

また、立ち向かっては退いて、立ち向かっては退いて。

暴竜の顔面が放たれた弾丸の熱と煙でボロボロになっている。


「どうだ、人間の力は?暴竜……」


俺は、頑丈な皮膚で覆われていたはずの前足を一つ切り落とした。

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