三十六話「真の姿」

暴竜は咆哮を放ち、俺は吹き飛ばされる。


「うわあっとっと……危なかった」


壁にぶつかる直前、踏みとどまる。


「撃て!撃て!」


この掛け声は……

もう弾薬の調合まで弾を使い切ったのか。

調合分の弾丸が尽きたらマークスマンの八人は何も出来ない。この作戦もやっと折り返し……

頼む、調合分で倒れてくれよ暴竜。

持ってる弾を全弾撃ち込んだのを確認しながら特科の後ろから俺はまた暴竜へと走る。


「一回待って!なんかおかしい!」


ユイの声が聞こえてくる。俺の足が止まる。


弾丸が撃ち込まれて灰色の煙で暴竜の姿が見えない。


「ユイ!何かあったのか⁉︎」


ユイの方を向き、叫ぶ。


「いや、あいつの体が……一瞬光ったように見えて……」


体が光る?

俺が疑問を抱いたその瞬間突風が吹く。灰色の煙が風で晴れていく。

そして俺は体の光るということの真相を知った。


「な、なんだよ……これ」


赤黒い血の色をした暴竜の姿がそこにはあった。

筋肉は赤黒い血色と共に膨張しており、4本の足はさっきの2倍はあるんじゃないかという大きさに膨れ上がっている。


煙が晴れ、俺の方を向く。

まずい、今俺の周りには……弾薬を調合をしているマークスマン達がいる。

……やるべき事は一つだ。


暴竜へ走り出す。禍々しい形相をした怪物へ走り出す。


「はぁぁっ!」


刀を振るう。だがそれよりも早く前足で刀を弾く。


「あの化け物……K1さんの刀を……弾きやがった‼︎」


俺は弾かれた刀と共に地面に吹き飛ばされる。地面に叩きつけられ、少し転がる。

俺は震える手で立ち上がろうと手をつく。

その時、影が俺を覆う。

フシュロロ……シュロー……


暴竜の口から赤黒い稲光と蒸気が漏れる。


「来いよ、あいつらの弾の調合が終わるまで遊んでやるよ……」


強がる。本能が恐怖から逃げろと言わんばかりに体を震わしていると言うのに。

俺はこいつには勝てないだろう……それでも何故か心に広さが生まれている。


「お前は1匹だが……こっちは九人と一人だ」


襲い掛かろうと暴竜は俺へ牙を向ける。


「操演、百花の舞!」


あの声は……


「ユイ!」


ユイは槍の連撃と共に俺やユイ自身にバフをかける。

俺は立ち上がり、暴竜の攻撃をかわす。躱した先は暴竜の首元。狙うは首と胴体を繋ぐ場所……


「楔突き!」


WOの桜一郎の突き技を放つ。


暴竜の膨れ上がった筋肉に突き刺し、赤黒い筋肉に触れる。

‼︎‼︎あっつ!

思わず手を離す。

暴竜は思い切り俺の鱗崩を抜く。

しまった。

俺は空中に取り残される。

そしてその瞬間、暴竜の突進をモロに受ける。


体を縦に真っ直ぐ割られたような激痛。そのまま壁に激突する。


「K1君ッ!」


ユイ……ダメだ、意識が……


「こちらマークスマン装填準備完了っす!」


朧げながら、声が聞こえる。


「一斉射撃!」


霞んだ視界でも分かるほどの爆撃が暴竜の体に撃ち込まれでるのが分かる。マークスマン達のクロスボウの弾が尽きる前に立ち上がらなきゃ……

言うことの聞かない体を起こそうと藻掻く。


コゴォ


地面の揺れが体を更に震わす。


「と、止まらない!何で!何故!?怯みすらしないぞ‼︎」


暴竜は後ろから爆撃を食らいながら吹き飛ばした俺の方へ走ってくる。


「まさか……クロスボウの攻撃が効いてないってことすか⁉︎」


どうやら最悪の状況のようだ。俺は上半身を何とか立ち上げたばかりだと言うのに……この世のものとは思えない化け物の顔が近づいてくる。


「私が相手だ!」


ユイが俺の前に立つ。


「ユイ⁉︎何をして……」


ユイのすぐそば、暴竜の顔が迫る。


ユイへ牙を剥く。そして俺の中である一つの情景が頭に浮かぶ。ミソラが俺にアイテムを渡した時の事。またあの時のように、俺は……


「嫌だぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎」


暴竜の口の中へアイテム欄から適当なアイテムを投げこんだ。



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