三十七話「最後の戦い」
「…………」
ユイの前にいた暴竜は姿を消し、俺は言葉を失う。そしてユイは目をつぶったまま、動かない。
「今、俺……」
何を投げたんだ?俺は?咄嗟のことで記憶がない。
「ん?なんか足音……止まった?」
ユイがゆっくりと目を開ける。
「って……暴竜は⁉︎」
ユイはあたりを見渡す。
「ユイ!」
「あ、K1君」
俺は振り返るユイに歩いていく。
「俺のアイテム欄って覚えてるか?」
「え……あぁえっと、確か写真を撮ってたような……」
ユイはゲームメニューから写真を探す。
「あ、あったあった!でもなんで急に?」
手渡しされながら聞かれる。
「いや、あいつが消えた理由が知りたくて……あ、これだ」
写真と自分のアイテム欄を見比べて投げたアイテムを見つける。
「カイキキューブだ……」
そうだ、あれは……
「あ〜なるほどだから暴竜はここから居なくなった訳だ」
「あの〜……ユイさんにK1さん。あの暴竜は一体どこに行ったんすか?」
マークスマン達もこちらに集まる。
「暴竜なら今頃供給基地にいるわ」
「きょ、供給基地!?何でそんな所に!」
「俺が投げたカイキキューブがあいつの口の中にでも入ったんだろう。恐らくそれでカイキキューブが発動したんだと思う」
「あ、一番大事な事忘れてた!ユイさん!あいつにクロスボウの弾が……効かないっす‼︎」
そうだ……さっきまで効いていた爆撃が全く効いていなかった。
「あの状態になってからだよな、効かなくなったの」
「そうっす。さっきの時も!」
「それしか考えられないよね……とりあえず今まで通りで……」
揺れ、相当でかい。
地面ごと揺さぶる様な揺れ。
「み、みんな!上、上っす!」
ミストは上を見ながら指を指す。そこにいた十人全員、崖の上にいる影を視界に捉える。
そいつは雪で覆われた崖の上に鎮座していた。
グォワァァァァ!!!!
咆哮と共に、崖の上にある岩を落としながら落ちてくる。
まずい、この位置にいたら、ユイが……!
「ユイ!」
ユイの腕を握り、思い切り自分へ引き寄せる。
「へっ?」
ユイのいた場所に、二人分はあるであろう岩が落ちてくる。
「まだ落ちてくるぞ!」
落ちる、落ちてくる。岩が次から次へと。あっという間にてステージを二分割される。
「あ、危なかった……」
ユイは口元を手を隠す。岩はもう落ちてこない。だが……
「しまった、完全に隔離されたぞ」
狙撃班との隔離はまずい、このままじゃあの作戦は使えないぞ⁉︎
ドスン!
地面を揺るがしながら、暴竜はステージに立つ。
さっきよりも暴竜の放つ圧は強くなっている。
「……決着……つけるか?」
刀についた雪を拭う。こいつが分割してくれたおかげであいつらに余計なリスクを負わせる事はなくなった。もうあいつらはこいつと対峙しなくていいんだ。
「ユイ」
「言わなくていいよ、私K1君が死ぬのなんて絶対嫌だからね」
…………
「一緒に戦って欲しい」
「答えるまでも無いよ」
……!赤いエフェクト。ユイのバフだ。
「バフは欠かさない。K1君はとにかくあいつを攻撃して。私は脚を支えてる腱がないか足を攻撃してみる」
ユイは操演槍を握り、旋律を紡ぐ。
「行くよ!」
「ああ!」
暴竜はこっちに突っ込んでくる。
「来い……」
二回目のバフが来る。
よく見ろ!見て、見て、見極めろ!!
……来る!
一瞬の攻撃、躱す。そのままの勢いのまま、暴竜を斬る。力のある限り振るう。攻撃をもっと速く、重く!
「もっと!速く!重く!もっと強く!」
腕がもげそうだ。躱すのに使う目も瞬きが出来ないほどの暴竜の激しい攻撃にずっと開けっぱなしで痛い。痛いけど、苦しいけど……まだ俺は戦える!
暴竜の爪が頭に掠る。
頭から血が垂れる。それでも俺は止まらない。
「俺は、世界一の剣豪だ。比喩なしにな。それと一度戦った相手には俺は負けない!」
勝つまで俺は死なないぞ。そうやって今までもこれからも勝つ。
暴竜の牙と俺の鱗崩がぶつかり、激しい火花と共に牙を折る。暴竜がのたうちまわる。
「行くぞ……暴竜」
頭がぼっーとする。体は防寒アイテムの効果が切れて凍え、それでも勝ちへの意思とそして仲間と言う最大の武器を持って俺はここに立っている。
「バフ、二段重ね!最大まで!」
バフのモーションが入る。
それと同時に暴竜が立ち上がる。
「まだ……あんたは地面にいなさい!」
ユイは暴竜の後ろ足の腱を突き刺す。
暴竜は苦しそうに唸り、地面に倒れる。
「やっちゃって!K1君!!!!」
ユイの叫びと共に俺は体にある全てのエネルギーを刀に込める。
「これで全部……終わりだぁ!!!!!!」
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