三十三話「しがみついていたもの」

「それじゃ……こんな感じで作戦は行こう」


俺は特科のみんなに作戦の詳細な点を説明、共有する。


「マークスマン八人、俺とユイを含めて二人、合計十人で行う作戦だ。作戦通りの動きが出来るよう、準備しておいて欲しい。特にユイは難しい役どころになると思うが……」


「任せて!サポート役はいつだって難しい役どころ何だから」


ユイは笑顔で返事する。それに俺は笑みを返す。時刻は過ぎ、作戦の説明を大方伝え、今日のところは解散となった。


解散と同時に広場の噴水でユイと共にぶらぶらと歩きながらログハウスと向かっている最中、ユイが話しかける。


「ねぇ」


「ん?」


「K1君さ……配信者?ってやつなんでしょ」


「ああ」


「今も配信してるの?」


「いや、配信は現実世界の俺がネットに繋がない限り配信できないんだ。てか何だよ急に」


「いやさ、K1君の配信見ててさ、ほんっとに最初の方穴に落ちた所あったじゃん。あそこほんと笑っちゃてさ」


ユイは思い出し笑いしながら、あの時の話をする。懐かしいな……確かまだゲームを始めたばっかの時だったな。


「そういえばあそこで手に入れた奴、どうしてるの?」


笑みがおさまったユイはあの不思議な空間で拾ったアレについて聞く。


「あれか?一応売れるか試してみたんだけど全く売れなくてさ、途方にくれて放置してあるよ」


「へぇー、じゃあ武器屋さんとかで売ってみれば?もしくは防具屋さんとか。案外売れるかもよ」


武器屋……そういえば売買もできるんだったな。武器の強化の為にしか使ってなかったから忘れていた。


「だとしても売れないだろーな……」


だってあれ錆びまくってて原型ないからな。あれ。

だが資金を少しでも増やしておきたい気持ちはある。

もう一段階強力な太刀があれば火力面でも他のメンバーの負担を減らせるし、何よりこのゲームで現状最も強い敵と戦うんだ。妥協は出来ない。出来ることはやっておきたい。普通の発想だ。


「まあ、売れなくても部屋が片付くし持ってくるよ。武器屋の前で待ってて」


「うん」


数分後、自分よりも少し小さい棺桶のような箱を武器屋の前に持ってくる。


「あ、来た来た。って意外と大きいねそれ」


「意外とな。あ、おっちゃん宜しく」


『お、K1じゃねぇか!今日はどうする?』


久しぶりの台詞だ。


武器屋のお爺ちゃんにサビの塊を渡す。


「これ、売りたいんだ」


俺の言葉の後、お爺ちゃんがフリーズする。小刻みに揺れ、ウィィーンという読み込み音が聞こえてくる。

だ、大丈夫だよな……?


「変な音出てるけど……もしかして仕様?」


ガクガクしてるお爺ちゃんをユイは指差す。


「んなわけ。俺も初めて見るよ……」


俺が一度渡したサビの塊に触れると同時、お爺ちゃんのフリーズが解除し、元のお爺ちゃんに戻る。


『おお!これは!お主、鍛鏡石たんきょうせき150個持っとらんか?』


「ひゃ、百五十個⁉︎そんな量あるわけないでしょ!」


鍛鏡石。鉱物アイテムなのに武器や防具に使えず、もっぱら商人に売って金を稼ぐ、お金稼ぎ用のアイテムだ。

だが金稼ぎのアイテムとしてはドロップ率が低い。ユイの反応から見て取れる通り、まず150個もそんな使えないし、売るにしてもそこまで単価は高くないアイテムを集めようとする者はいない。と思っていたが……まさかこんなとこで使うことになろうとは。

このアイテムには俺は普通の人よりも思い入れがある。

まさかそうなるとは俺も思っていなかったが。

俺は今154個の鍛鏡石を所有している。

普通、こんな大量に鍛鏡石は持ち歩くことはないだろう。

……その理由は四人で集めた物だからだ。

準前線3番隊の四人で。

毎日のように進軍する際、ステージに出向いた時に気分転換として鍛鏡石を探して集めるという遊びをみんなが提案した。その遊びで手に入れた鍛鏡石は、200個集まったら売り飛ばそうとしていた。

それで今俺一人となり、この中途半端に残った鍛鏡石を抱え生活していたのだった。

俺は恐らく無意識にあいつらといた形あるものにしがみついていたのだろう。


「あるぜ」


……だがもう充分だ。

いない人間の面影にしがみつくのはもう。

終わりだ。


『へへっ、そうこなくっちゃな……待っとれい!太刀の極地を見せてやろう』


俺のアイテム欄にある鍛鏡石は4つを残し、無くなる。


「も、持ってるのも意外だったけど、使っちゃってよかったの!?」


ユイは心配そうに聞く。


「ああ、あいつらの形見は俺の心にだけあればいい」


武器屋のお爺ちゃんの作業工程を眺めながら言う。


そして数秒後、武器屋のお爺ちゃんはいつもの武器作成後の挙動を行い、作成されたものを手に取る。


「これが……」


『これは竜殺しの太刀、鱗崩りんほう、竜族のモンスターに対して物凄い威力を誇る古来より伝えられている最高傑作じゃ』


その説明と共にお爺ちゃんの会話が終わり、いつものモーションをひたすら続ける。


「鱗崩……」


俺は生唾を飲み込んだ。

飲み込まれそうな程……陶酔してしまう程滑らかな刃に俺は目を離せなかった。


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