三十一話「最強の弱虫」
正直まだ完全には立ち直れてはいない。心にはしこりが残る。
人恋しくなってああいう発言をしたのかもしれない。でも今の状況を好転させなければ何も始まらないのも事実だ。
「……ありがとう、こんな弱虫の言葉を聞いてくれて」
「……ほんとに弱虫ならそんなこと天地がひっくり返っても言えないよ」
いや、弱虫だよ。
だって仲間を求めてしまった。
もう仲間は作らないって固く誓ったのに……一人で戦うのが当たり前だったあの時に戻ろうって思っていたのに。
俺はすっかり変わってしまった。でも、
「それでもいいのかもな」
「へ?弱虫でもいいってこと?」
「いやいや、そうじゃなくて……いや、そうかな」
一人で黙々とやるゲームよりも、配信してリスナーとやるゲームよりも、俺は仲間と一緒にやるゲームは何にも代え難いものだと思う。
それは一時的なものかもしれない。ネットゲームの友達は世間的に見れば他人だ。そのゲームが終わればそこまでの関係。失った時の喪失感は相当大きいものだ。それを恐れ避ける人を弱虫と呼ぶなら俺は弱虫だろう。
でも、そのゲームで色々なところに行って、見たことのないモンスターに出逢いながらボスを倒した時、もしくはそれまでの道中の会話、仲間と遊んだゲームの時間はとてつもなく居心地のいい場所、空間だった。今までもずっと……そうだ。
「変なの」
ユイは少し笑う。
「ユイ」
「ん、今度は何?」
「俺、最強の弱虫になる。早速あの暴竜を倒す作戦を考えようぜ」
「……ふふぅ、あはっは!何それぇ」
あの時と同じ笑い方だ、あの特徴的な笑い方。
「ほら、笑ってないで作戦だ、作戦だ」
「はいはい、分かったから」
ユイと俺はログハウスを出た。
〜〜〜〜〜
誰もいない集会所、時刻は夜の21時。殆どのプレイヤーは自分の部屋に帰る時間だ。外に出た時も人はまばらにしか見えず、商人の前で買い物しているものや黄昏ているもの、放心しているもの。いつもこの時間にはログハウスにいたのと仲間との会話で周りを見る機会がなかったからかいざ周りを見てみるとこんなに静かで、落ち着く暗さに気づく。
「ほら、こっち」
ユイについて行き、集会所の奥、他の壁とは違う色の壁。
三回叩き二十五回ノックする。そして壁にあるポスターに手のひらをかざす。しばらくして壁が目の前から無くなる。
「こうすると真っ黒な空間が出てくるんだ。なんだが昔のゲームの隠し通路みたいでしょ」
ユイの言葉に同意しつつ暗闇へ足を踏み入れる。
「ここが私の秘密基地、今は私達の秘密基地だけど」
暗闇の空間に光が見える。そこには八人ほどの男達と大きな机、十個ほどの椅子。
「紹介するね、クロスボウ専のグループ。マークスマンの方たちよ。今は私も入って『特科』って名前でやってるの」
「ど、どうも」
「あ、どもっす。自分ミストって名前でこのゲームやってます。よろしくっす」
この人、俺の看病してくれてた男の人だ。
「それじゃ、早速だけどK1君に今の情報を共有しようと思うの。ミストくん」
「了解っす。それじゃまずは
ミストは書類を右手に持つ。
「黒元竜についてですがこのモンスターのデータが消失したっす。現在このゲームのシステム上、黒元竜は存在しないことになりますっす」
……え?嘘だろ。
「つまり黒元竜はこのGrand Monster Worldには出てこないってことか?」
そんな……まさか
「はいっす、現在この状況下で黒元竜はシステム上現れないことが分かったす」
……
「黒元竜を倒せないとしたらその後このゲームはどうなるんだ?」
「さぁ、そこまでは……」
マズいな……ラスボスが出てこないのにこのゲームをどうやってクリアすればいい?
「……私はゲームをクリアすることがこのゲームの脱出に繋がるかどうかは限らないと思うの、K1君。そんな目的で私達をここに監禁するなんてイカれてるとしか」
……言われてみれば確かに。何かしらの目的があって俺達は閉じ込められた訳だ。俺達にゲームのデバッグでもさせるつもりだったわけでもないだろうし、何か俺達の、俺達の何かしらのデータを取るためにこの世界に?もしそうだったとしたら何を?
……答えは出てこない。
「これは考えてもしょうがないっすよ。次行くっす」
ミストはまた書類をめくる。
「次に討伐隊の隊長についてっす……」
少しシュンとした様子でミストは話す。
「ヴィスターさんのことか?」
「はいっす、それでヴィスターさんのことなんすけど……」
ミストは口を濁らせる。
「どうしたんだ?」
「いや、実は……この報告ってホントだったのかなって……」
「え?」
「ミストくん、信じられないかもしれないけどそれ、ホントのことだよ」
ユイの方を向きミストは一度頷く。その書類をもう一度確認する。
「……ヴィスター隊長は、前線プレイヤー以外のプレイヤーを用いて無謀な新天地の調査をさせていたとの事実があったという報告があったっす」
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