二十五話「群狼獣(バイローフ)

さっきまでの風の音は一切無くなり、ボーという音が耳の中で響いている。あのすすり泣く音のした方へ、暗闇の洞窟をランプ一つで歩いていく。白く濁った呼気がランプによって照らされた小さな光と共に洞窟の中に飲み込まれる。


「こっちか?」


2手に分かれた道を進んでいくと、光が漏れる道が見えてくる。


「あの光は……出口か?」


もう一度フレンド欄を開く。現在地を確認するとちょうどあの光の辺りに反応がある。

段々と強くなる光に目を細めながらその光の元へ歩いていく。

曲がり角、視界に映ったのはランプ。

そしてVorzとミソラの二人が体を縮こませながら泣いていた。

Vorzは静かに涙を落とし、ミソラはすすり泣きながら顔をうずめている。


Vorzがこちらを向く。


「……よぉ、来てたのか」


涙を拭わずに俺へ話しかける。


「ビーズは、どうしたんだ」


ミソラは一瞬体を震わせる。Vorzは俺から視線を逸らす。

二人の様子からビーズははぐれたり、行方不明になったのではなく……死んだのだと分かった。


「……ごめん、嫌なこと聞いちゃって」


俺の言葉は二人の沈黙に飲まれ、洞窟の天井から落ちる水滴の音だけが響く。

俺はこの沈黙の中で寒さを感じなかった。自分の心臓のバクバクとした心拍と妙に汗をかく背中に意識が移ったためだ。その時、Vorzがぼそっと口を開く。


「ビーズは死んだよ。群狼獣バイローフの群れに囲まれて。根こそぎ肉を食われてた。全くこのゲームを作った会社はこんな所までリアルに描写するなんてイカれてるぜ」


Vorzは力のこもっていない声で話す。


「群狼獣……」


あの数百匹単位で群れを作って狩りをする中型モンスターの中でも強力だとされているモンスターの事か?


「俺、倒そうかなって思ってんだ。その群狼獣ってやつ」


Vorzは視線を地面に据えたままそう言う。

……恐らく状況は俺が考えるよりも悲惨だったのだろう。Vorzのこんな顔は初めて見る。


「俺は認めねぇ!その群狼獣って奴倒しにいくぞ」


Vorzは皺の寄った顔にただ唾を飲んだ。



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