二十四話「遭難」

2044年12月24日AM8:00氷河エリア2番エリア


「時間です。部隊の後ろへついてきてください」


前線部隊の一人がテントの中で待機していた俺達に呼びかける。


「ふぅー、やっとかよ。全く寒くて死ぬとこだったぜ」


坊主の不満と共に俺達第3部隊は立ち上がる。テントから出るとしんしんと降り注ぐ粉雪と、灰色の雲が空に広がっている。

既に地上は蛍光灯の光かの様な雪で覆われており、自分達より先に出発したプレイヤー達の茶色い足跡が鮮明に残っている。俺達はこの足跡を頼りに進んでいくのだ。

先頭に坊主、ミソラ、ビーズと並び最後尾に俺、真っ直ぐに並んで進んで行く。




「……なぁ」


坊主の声がうっすらと聞こえてくる。さっきまで聞こえていた坊主の声が吹雪による強風によって聞こえづらくなっている。


「何だ?上手く聞こえないんだけど!」


声を張ってみるが、轟音で掻き消されて何も返事がない。

30分程経った辺りからこんな感じだ。吹雪で視界も遮られて、風で音も聞こえない。


「もう一回言ってく……」


ゴゴゴッッ

何だ?この音……転がってくる音?

カバッ

俺の足の周りの雪が崩れる。その刹那、視界は酷く濁った。パウダー状の雪と水分を含み、重く硬い氷となった雪に押し流される。雪崩に巻き込まれたことを脳が理解する。

勢いは衰える事なく、いやむしろ勢いは強まっていく。雪の重さで全身が潰れそうだ。視界が廻る中、俺は雪崩と地面に挟まれた衝撃で意識を失った。







「うっ……ペッ!がはぁ!」


冷たい、いや、寒い。口の中に入った雪を吐き出す。


「……ここは?」


体のあちこちに付着した雪を取り除きながら、立ち上がる。

見たことのない景色。今まで来た何処でもないとこだ。


「あ……ミソラ!坊主!ビーズ!」


三人は何処だ。俺は雪をかき分けながら三人を探す。


「おい、居るんだったら声を出してくれ!」


大声で叫びながら、俺は悴(かじか)んだ手を摩(さす)りながら雪を掻き分ける。






……ダメだ。30分程探したが一向に見つからない。しかも防寒アイテムの効果が切れた。途中で支給物資を配布するポイントの前で雪崩に遭った為、今アイテム欄に一つだけある防寒アイテム「ホットー」だけでやりくりするしかない。


「とりあえず寒さを凌げる場所に行かなきゃ……」


三人共、雪崩にあった時にいなくなったかのしれない。それよりも寒い。寒さが痛みに変わる瞬間が来る時をここで体感する事になるとは予想だにしなかった。


「足場を作って足を冷やさないようにしないと」


所々に落ちてる枝を集め、イカダのように組み立てる。

何層にも重ね補強する。こうして地上のイカダが完成させる。


「限界の来ない内にみんなと合流しないと」


一度キャンプ地に戻ろうとする為にテレポートを使おうとするがキャンプ地からは大分離れてしまっている為テレポートが機能しない。


「キャンプ地まで何キロあるんだろ?大分歩いたからな」


1時間は少なくとも歩いていただろう。更に山の麓まで来てしまったとすると相当な距離だ。一度キャンプ地に戻ってアイテムを四人分持っていってやりたいところだったが、それも無理そうだ。アイテムを取り出そうとメニューを開いた俺はあるこのゲームの『フレンド』の仕様を思い出す。


「そうだ!フレンドから現在地を見ればいいじゃないか」


あまりの寒さと衝撃にこの仕様を忘れていた。自分から半径10km内であればフレンド登録をした人の現在地がマップに表示される。

ユイがフウユガルとの戦いの後に俺を見つけたのはこの仕様によるものだったと言ってた事を今になって思い出す。


「通話はさっきやっても繋がらなかった……これに賭けるしかないか」


俺はフレンド欄を開き、三人の欄を見る。




いない……マップにフレンドを意味する赤い点は存在しなかった。そしてマップに表示されているここはどうやら6番エリアらしい。


……どうする?俺は……どうしたらいい?

三人を探すか、進んで前線部隊と合流するか……

この極寒の氷河の中で俺の動ける時間は限られてくる。

どちらも行うのは難しいだろう。

いや……

俺は落ちてきた道へ歩く。三人を探すために。

寒さに震えながらフレンド欄を開き、反応を探していると、赤い点が一瞬点灯した。


「今……」


見間違いかと少し後退して確かめる。そしてマップの恐らく10km内のギリギリに赤い点が見える。


「いた……」


俺はフレンド欄を閉じて、赤い点のある地点まで走った。何度も転び、そして息を切らしながらひたすらに進んでいった。通常のマップを見てまた走る。そして赤い点のあった場所まで走る。暫く走ってまたフレンド欄を開くと赤い点は目の前に迫っている。


「あの穴か?」


俺は目の前にあった洞窟を覗き見る。昼だというのに奥は暗闇が続いている。


「ミソラ!坊主!ビーズ!いるのか!?居るなら返事してくれ!」


俺はありったけの声で洞窟の中へ叫ぶ。

しかし洞窟から返事はなく、俺は洞窟の中へ入ろうと洞窟へ近づくと女のすすり泣く声がうっすらと聞こえる。

今の声は一体なんだ?俺は洞窟の奥へと進んでいく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る