二十三話「冬将軍到来」

12月23日氷河一番エリア


「空がもう暗いな……」


午後6時、冬の夕暮れは短い。

冷たい大気が俺らに風として襲いかかる。防寒アイテムを使っていなければ今頃凍死していた事だろう。ヒビの入った氷の路、地面は雪で覆われ、所々アイスバーンが形成されているのも確認できる。

そろそろ俺も帰るか、ミソラやVorz達も待っている。俺は前線部隊のいる氷河からテレポートアイテムを使ってログハウスの目の前まで移動する。


「おっ、やっと帰ってきた」


先に帰って、料理を作っていたミソラが俺を見かける。どうやら外の薪を取っていたところの様だ。


「ただいま。二人は?」


「もう中に入ってるよ。K1君も早く入りな」


ミソラは抱えた薪を手に持ち替え、ドアを開ける。


俺はログハウスの中に入り、椅子に座る。頭の中にあることは前線の状況についてだ。

ここの所、本当に前線の状況は厳しそうだった。明らかに疲労困憊で動ける状況にないプレイヤー達が這いつくばりながらでも前進していく姿は正にゾンビの大群の様だった。特に討伐隊の人間は、大変そうだ。後続のプレイヤーの為に道を開拓する作業を行っていたのを見るとかなりの重労働だ。だがその甲斐があり、数日で前線プレイヤー達の侵攻が進み、明日は遂に氷河エリアの最深部への侵攻が始まる。


「明日は遂に氷河の最深部か……」


鬼が出るか蛇が出るか、はたまたそれ以外か……どっちにしろ俺達も加勢するはずだ。俺は前線部隊ではない為、隊列の後ろについていくだけだが緊張するものだ。それに前線部隊に行ったユイのことも気にかかる。とにかく気がきでならない。


「何だ、K。心配そうだな」


坊主が俺の椅子に手をかける。


「何だよ急に」


「だってお前、普段そんな肩に力入れてないだろ」


坊主が俺の肩を指で差し、指摘する。

俺は自分の体を確かめる様に一つ一つ意識する。確かに強張って力の入った肩、背中からの汗。

明らかに緊張している。だがそれと同時に嬉しくもある。明日、氷河エリアの主を倒せばラスボスの顔を拝められるのだ。ゴールの目の前まで来たんだという希望が俺の体の細胞一つ一つに活気を与えている。


「みんな〜明日朝早いんだからそろそろ寝なよ〜」


ミソラの声に俺と坊主は振り返る。


「そんなことよりもう寝る時間だ。行くぞ坊主」


立ち上がると共に坊主が俺の後ろにつく。


「今更だけどVorzな!今更だけど」


坊主のいつもの声を聞き、俺の肩に入っていた力はいつの間にか抜ききれ、緊張はどこかに消えてしまった。

坊主に心の中で感謝しつつ、坊主と共に寝床へ行く。


夜、薄暗い紺色の光が俺と坊主、ビーズのいる部屋の窓から入ってくる。俺は布団に入り窓の外にある景色を眺める。白く光る月光と霞んだ紺色の暗闇、その境界線は少し滲んでいる。ビーズのいびきの中で目を閉じる。


「おい」


小さな声で坊主が俺に話しかける。


「何だよ。明日は遅刻できないんだから、早く寝ろよ」


「そうじゃねぇ。お前のことについてだよ」


「……俺?」


「お前、今日俺達のことを心配そうに見つめてただろ……明日の侵攻で俺達が危険な目に遭うかもしれないって」


坊主の喋るトーンが低くなる。


「何だよ急に?確かにさっきまでは心配だったさ。本当に俺達、大丈夫なのかなって……でも俺らなら大丈夫だ。もし何か起きたとしても、俺が守るよ」


坊主は毛布で体を覆う。


「お前の世話になんざならねぇさ。お前は一人で突っ走る時があるからそれだけ気をつけとけ」


坊主はその言葉と共に眠りについた。


「……ああ、気をつけるよ」


俺はまぶたを閉じ、静かに微笑むと、月明かりが差し込んだ。

俺は毛布を頭までかけた。

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