二十二話「現実世界」
2044年12月20日日本.警視庁サイバーセキュリティー対策本部地下2階
「いやー、お疲れ様です皆さん」
「あ、熊谷警部。お疲れ様です」
ぽっこりと出たビール腹、白髪の混じった中年男。名は
「どうですか?彼らの様子は?」
熊谷は胸ポケットの煙草を取り出し、右ポケットから出す。
「警部、ここ禁煙ですよ……被害者は今日もいつも通りですね」
熊谷は火をつけようとした煙草を箱に戻し、胸ポケットにしまう。
「こほん……そうですか。にしても彼らは災難ですな。このゲームにログインしてしまったが故に」
熊谷の視線の先、パソコンの画面に映し出されたある少年の監視カメラ映像。
「
警部補の一人が蜜柑を食べながらパソコンの画面を見ながら言う。
「生存を確認して警察の了承を受け入れてくれた人だけでも約1240人程度ですからね。総数で言えばほんと氷山の一角みたいなもんですよ」
蜜柑の皮をまとめ、席を立つ。それと同時にもう一人の警部補が鼻で笑いながら呟く。
「でもあんな家族が快く受け入れてくれたのは今回が初めてですよ。どれだけ邪魔だったんですかね。配信者って名乗る子供は。ははっ」
熊谷は、席に座り顔をしかめる。
「こら
熊谷の言葉を遮って警部補の西谷は話す。
「だってすよ、ろくに定職に就かずに実家の部屋でパソコンの前で機器をつけて椅子に座ってるのが仕事だって言い張ってるんすよ。いい大人がですよ。しかも大半は生活出来るほど稼げてないし、なんなら電気代や食費を引いたら金食い虫になってるんすよ。いい大人が陰惨な現実から目を
「……はぁー」
熊谷は頭を抱え、溜息を吐く。
「西谷さん、貴方私か
「否定はしないんすね」
「……貴方が疲れているのは分かりますが、あの発言が取り上げられたら、民衆の声が大きくなるでしょう。そうすると後々面倒くさい事になるのは貴方達ですよ」
熊谷は、煙草を一本取り出す。
「警部、ここ禁煙です」
「……」
宮内の言葉に、熊谷は取り出した煙草をゴミ箱に捨て溜息を吐く。
「すみませんって熊谷警部。ちょっとした愚痴っすよ。今度仕事納めの時でも飯、行きましょうよ」
「全く……調子のいい後輩ですね」
熊谷は机に煙草を置き、椅子にもたれかかる。
「つーか熊谷警部。煙草一箱2050円の時代に、煙草一本ゴミ箱に捨てるなんてやりますね!」
西谷の言葉に返す気力もなく熊谷は適当に返答する。
「一本程度、変わりませんよ。私はヘビースモーカーじゃありませんからね」
〜〜〜〜〜
2044年8月29日記録
あの大人気VRゲームデバイス『エンターワールド』のゲームで重大な不具合が発生しました。今年の3月中旬よりT-Rexより配信が開始されました『Grand Monster World』をプレイしたプレイヤーに異常が報告されました。警視庁はこれらの事件の一貫性について捜査を進めています
これは本日朝のニュースの一文である。4月3日頃、最初の被害者とされる15歳男性阿笠圭一に異常があるという通報を受け、本人に事情聴衆を行う。家族も異変に気づいたらしく、かかりつけ医に見てもらった所、総合病院で検査して方がいいとの決断を言い渡された。総合病院での検査結果は、「異常はないが、脳の障害のようなもののせいか、判断に柔軟性が無くなっている事が見受けられる」とのことだそうだ。そのあとAI判定を行った結果、陽性の反応が出た為、一度こちらの警視庁での留置という事になった。
そして今日に至るまで、阿笠圭一と同じ症状の患者が急増している。それら全員に共通しているのは『Grand Monster World』をプレイしているという事だった。彼らは一定の生活リズムを崩す事無く、生活している。毎日毎分一分の狂いもなく続ける。なぜ彼らがAIの思考パターンに則って同じ生活を続ける様になったのかは分からないが、原因の究明に努め、捜査を継続していくことにする。
8月30日
今日も被害者達の健康被害は確認されていない。各々の生活リズムを崩さずに生活を続けている。1つ気になるのは、数人の被害者の部屋から3秒程の警告音が発生している事が確認された。警告音の後、特に変わった様子は無く、いつも通りの生活を繰り返す被害者達。あの音は一体何だったのだろうか?
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