二一話「冬到来」

「「はぁ!」」



俺とミソラの斬撃はトルムロルの体をマス目状に切り裂いた。


体中を切り刻まれたトルムロルはフラフラとした後、地面に倒れ込む。


「よくやったよK1君!すごい一方的に倒せたよ!」


ミソラが俺の肩を叩く。


「ありがと、上手くいってよかったよ。怪我人も出さずに済んだし」

 

あっさりと倒してしまった。一方的な戦い……いや暴力と言った方が正しいだろう。夕暮れの空を見て、パッとしない達成感に包まれながらトルムロルの死体を眺めていた。


〜集会所〜


「いやー、今日は本当に災難だったよ」


ミソラが呟き、俺達三人の前を歩く。


「うんそうだね〜。K1君がいなかったらどうなっていたかと」


ビーズはいつもの口調で話す。


「なんか変だと思っただけだよ。それでやってみたら見事に動かなくなっただけさ」


トルムロルとの戦闘中、興奮してしまったせいか

〝やっぱり……重心が少しでも前に傾むいちまったら……後ろ足が浮いちまうよな!”

なんて事を言っていたが、あくまで予想を立ててやってみたらその通りだっただけだ。

……今思うと恥ずかしい言葉だ。ついさっきの自分の発言に悶々としているとミソラが俺の名前を呼ぶ。


「K1君、K1君?」


気づいた時には俺の目の前にミソラが立っている。


「おわっ!」


長い睫毛に整った顔。急に目の前にこられて驚いてしまった。


「ちょっとそんなに驚かなくてもいいじゃーん」


「いや、考え事してて……」


「じゃあさっきの話聞いてなかったの?」


「え?あぁごめん聞いてなかった」


「はぁー……全くもう」


ミソラは溜息を吐き、しょうがないなとぼそっと言って俺にさっき話していた話をもう一度話し始める。


「いやさっきね。討伐隊と前線部隊によって原生林の主を倒したって報告が来たのよ!」


原生林の主を!?まだ1週間程しか経っていないのに何て速さで攻略してるんだ……驚きと共に着実にゲームクリアへと進んでいる事実に気分が高揚する。


「そりゃ凄いな。普通じゃない速度だな」


「ほんとねー。明日から火山の攻略にも手をつけていくってさ。本当働きもんだよね」


ミソラの言葉と共に不意にユイの事を思い出した。


「ユイ……元気にやってるかな」


俺は小さい独り言を呟く。その独り言は坊主とビーズの空腹を訴える言葉にかき消された。


12月20日〜広場〜


すっかり秋も終わり、ゲーム内では雪が何日か続いた。

自分の住む地域では12月には雪は降らない為、なんだか変な気分だが悪い感じはしなかった。あまり雪の降らない地域では雪というだけでちょっとしたイベントだ。


「雪積もってるね」


ミソラの呟きと共にガラスが曇る。

ミソラは窓から雪の降る外を眺める。それとはうってかわって俺、ビーズ、坊主の三人は暖炉の前に集まり足の裏を暖めていた。


「寒いっすねーほんと」


「オメェはその厚い脂肪があんだからいいだろうが。俺とかKみてえな絞った体の人間には寒さは天敵なんだよ。そうだろK?」


坊主は俺の方を振り向く。


「まあ……寒いのは苦手だけど、暑い方が俺は嫌かな」


靴下と手袋、装備を着終わり、暖炉を離れる。


「そんじゃ薪とってくる。夕方には帰ってくるから」


椅子から立ち上がり、1週間前から始まった共同生活の為に、分担している薪拾いの準備を始める。

1週間前、討伐隊が破竹の勢いで火山の攻略を終わらせ、火山の主を倒したという情報が耳に入り、あまりの攻略の早さに俺は驚いてしまった。そして遂に明日、氷河への進出を目指すとの事だ。それに伴い、準前線組もそのまま氷河の前線組のサポートとして入って欲しいとのゲームメールがここ一週間前から来ていた。それに伴い木製のログハウスを購入してみんなで住む事にした。これからは前線組と合同で行動することも多くなる為、時間厳守で動かなければいけない。

しかし寝坊常習犯の坊主という不安材料がこの隊にはいるのだ。それを鑑(かんが)みて俺達は共同生活という手段を取る事にした。

こんな言い方だが本当は自分が誰かと一緒にいたかったのだ。この準前線3番隊に所属して皆といる時だけは、時間を意識せずにこのゲームの中を動けるのだ。解散して一人のマイルームに着いた時、静けさと薄ら寒い部屋の空気が俺を現実に引き戻す。寝る必要もないし、食事をする必要もない。だが頭には美味しいご飯を食べ、頭空っぽで寝たいという欲望だけが俺の頭をグルグルしている。

一人の時はそれをずっと考えながら、なんとか意識を消そうと瞼(まぶた)を閉じベッドに横たわる。そんな毎日だった。しかし集団生活を始めてからはそんな事とパタンと少なくなり、熟睡する事が出来ている。これもあの三人のおかげだろう。

薪を背中の籠にパンパンに敷き詰めながら、帰る準備を始める。


「さて、帰るか……」


その独り言と共に今年初の白い息が空へと吸い込まれる様に向かっていく。


拠点に戻り、俺達のログハウスが見える


「おーい、もうご飯の時間だよー」


拠点に戻り、俺達のログハウスが見える。そしてログハウスのテラスにいたミソラが手を振りながら俺に言う。


「わかったー、薪置いたらすぐ行く」


ミソラは笑顔でオーケーサインを出し、部屋へ戻る。

それにしても風が凄い。早く戻ろうと湿った風を身に受けながら大股で歩いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る