二十話「槌頭獣(トルムロル)」
「はぁはぁ……くそー!強すぎんだろ」
坊主はバスターソード共々地面に背をつける。
「えーと、私が10匹でK1君が12匹だっけ?」
ミソラは死体となったパナポスを数える。
「多分……14匹かな」
あやふやな記憶から何とか記録を引っ張り出し、手に持っていた太刀をしまう。
「うわぁお。流石にいい腕してるね」
「ありがと。でも俺やミソラの武器は抜刀してる時や構えてる時でもそれなりに動けるから、重量級の武器を扱う二人は今回負けてもしょうがない気がしてならないけどな」
「はは、まぁね。でもこんな無謀な賭けを仕掛けてきたのは坊主だけど」
ミソラは坊主を見てニヤニヤと笑う。
「くそー!次は負けねぇかんなー」
坊主は立ち上がる。
ググっ……
ん?何だ?
足元をぐらぐらとした揺れが襲いかかる。
「うわぁ、今の揺れたね!」
ミソラも揺れを感じたらしく、周りを見る。
「た……たしかに何か揺れた様な」
ビーズも立ち上がり、それと同時に揺れは大きくなっていく。
「おいおい何だよ急によ!この揺れヤベェだろ」
慌てて坊主が立ち上がる。俺は自分を含むみんなの死角へ視線を移す。そこには退化し小さくなった前足に歪なバランスとしか言いようがない大きな頭部。
そして何より頭頂部についた槌の様な頭……小さな目がこちらを覗き、皺の入った犬歯を光らせる。
「こいつ……
俺の声と共にトルムロルは地面を頭にある槌状の
「こ、こいつの揺れのせいで体が動かせねぇ……」
坊主の足元がぐらぐらとしている。動けずただ呆然と立つ坊主を助けに走り出す。
「坊主、早く俺の手を掴め!」
腕を千切れんばかりに張り、手を伸ばす。それに気づいた坊主が俺の方へ手を伸ばしダイブする。
捕まってくれ……!
心の声が頭の中で響きながら、手を握る。思いっきり坊主の手を掴み、引っ張る。
その勢いのまま俺が坊主の下敷きになりながら地面に倒れる。
「あ、あっぶねぇ」
坊主の声は裏返り、蒼白な顔を俺に向ける。
その後すぐ坊主の立ち尽くしていた場所にまた瘤を叩きつける。
「とりあえずこいつさっさと倒すよ!大型モンスターの中じゃそこまで強くないから」
ミソラは薙刀を取り出す。
「全く……いつもタイミングが悪いんだよ。お前らモンスターは」
俺も太刀を取り出し、構える。
「ビーズ、坊主!早く立って武器構えな。死にたくないならね」
ミソラの声と共にビーズは立ち上がり、坊主も足を震わせながらも立ち上がる。
「僕、怖いよ……」
「うるせぇぞデブ、俺だって怖ぇんだよ。覚悟決めろ」
坊主はトルムロルに目を尖らせ、落ちた大剣を拾う。
俺ら四人とトルムロルは睨み合う。
「ビーズと坊主は足元に張り付いて。私とK1君で他のとこ攻撃するから」
ミソラは俺を含んだ三人に話しかけ走り出す。
俺もミソラの後ろをついていき、二人も後ろから旋回しながら足元へ走っていく。
……にしてもこのモンスター、頭の大きさと体の大きさが釣り合ってない。明らかに重心が前に偏っている。
自転車の前カゴに重い荷物を置いたかの様な感覚と言った方がいいのだろうか。
「はあぁ!」
ミソラが頭めがけて薙刀を振るう。しかしあっさりと躱され小さな尻尾に叩かれる。
「いっっったぁ……」
ミソラの肌が鞭で打たれたかの様に尻尾で叩かれ、赤くなっている。
「ミソラ!」
俺は助けに行こうとするとトルムロルが俺の前に立ちはだかる。
グシグシシシィ
歯軋りの様な鳴き声と共に頭の瘤を叩きつける。
その動きはもう捉えた。
トルムロルが頭を叩きつけると同時に思い切り地面を踏み、ジャンプする。
地面が振動している間俺は跳び、左足を先に着き地面に接した左足で地面に瘤を叩きつける為に、頭を下げたトルムロル。
そいつの瘤へ俺はしがみつく。こうすれば多分……
トルムロルは顔を上げようとするが一向に頭を上げない。
いや、出来ないのだ。頭を上げることはこいつには出来ない。
「やっぱり……こいつ重心が少しでも前に傾むいたら……動けない!」
やはり俺の予想通りだ。重心があまりにも前になっているこの状況。後ろ足が重い頭の方へ引き寄せられている。重心のバランスが完全に崩れている。
「坊主、ビーズ!早く後ろ足を!」
「わーてるよ」
「ま、任せて!」
二人の声が聞こえる。二人は左後ろ足に立ち、思い切り武器を構える。
「「どおぉりやぁぁ!」
二人の大きな鉄板の剣に、大きな斧。この二つの武器は一つのモンスターの足を潰すかの様な勢いで叩きつけられた。
グシッッシシシ!
食いしばる様な鳴き声と共にトルムロルはバランスを崩し、地面に倒れ込む。
「お前はここまでだ」
俺は太刀で瘤と頭を切り裂いていく。地面に打ち付けられ、硬質化した皮膚の部分に瘤が出来ているため、瘤を破壊するのは大変だったがそれ以外はあまりにも脆い。ぶよぶよの皮膚だ。
「もう、俺たちに近づくな」
〝俺の仲間には手を出すな“
そんな言葉を意味もなくトルムロルにかける。感情のないゲームのNPCに俺は心の中で強く答えた。なんの意味もないのに。心の底からはっきりと俺は断言し、トルムロルの頭に太刀の刀身を全て見えなくなるほど突き刺した。
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