十九話「太刀使い最強の男」
10月27日AM6:00
「全く……最近寒くねえか?」
坊主は両手で腕を組み、体を縮こませる。体が震えているせいか身につけている鎧の擦れるカチャカチャという音がより大きく聞こえる。
「今日は霧が深くて日が入らないからな」
俺は事前に『熱盛』という瓢箪に入った防寒アイテムを飲んでいた為寒さが無効化されている。このアイテム、自分の薄手の装備ですら寒さを感じない優れもので、顔も紅潮してポカポカとしている。
「あ〜くそさみぃ」
坊主と俺は、白い息を吐きながら進む。
「それにしてもよ、何でこんな霧の深い時に草原エリアなんかに行くんだ?」
坊主が腕の鳥肌をさすりながら、聞く。
「あるアイテムを手に入れる為だよ。このアイテムは天候が霧の時にしか手に入れられないらしくてさ」
そのアイテムが入手出来るエリアまで着き、草の中を掻き分けながらあるアイテムを探す。
「……あったあった。ほら、これ」
幸運にも2分程で見つける事が出来たアイテム『ゾウフクカ』を坊主に渡す。
「何だこれ?綺麗な花にしか見えねぇけど……」
『ゾウフクカ』を色んな方向から見る。俺が初めてこのアイテムを手に入れた時と同じ反応だ。
ゾウフクカの淡い黄色の花弁に、真っ赤に染まった花柱。刺激的な色合いなのにも関わらず、そこに美しさを感じる不思議な花だ。
「それはゾウフクカって言うんだ。HPとドーピング液の効能を持った強化版みたいな奴だと思ってくれれば分かりやすいと思う」
「へぇー、しかしこれ俺がついてくる意味あったか?」
坊主は足早に帰る。俺もそれについて行こうと早歩きになる。
「坊主の危機管理の煩雑さを思い知らせる為さ。だから俺寒いって言っただろ」
「ここまで寒いとは思わなかったんだよ!うぅ〜さみぃー」
坊主は子供のような返答をしながら、更に早く歩く。
「……とりあえず帰るか」
坊主が霧に消えて見えなくならないよう俺も走る。朝に走るのはWOの訓練の一環でしていたが、中々慣れるもんじゃないなと思いながら追いかける。
〜集会所〜
「はあー、あったけぇ……」
集会所の暖炉で暖をとる坊主を見ながら、切り株の椅子に座り、頬杖をつく。
「そんでよ、その『ゾウフクカ』って奴はどうするつもりなんだ?」
坊主は背中を向けながら俺に問う。
「人数分とってきて侵攻の日に備えるためさ。もうすぐだろ、密林ステージへの移行とかさ」
頬杖を止め、立ち上がる。
「ああ〜そういや密林の主倒したって聞いたなあ」
坊主は気の抜けた声で頷く。
つい先日、準前線部隊の俺達に通達が届いた。内容は討伐隊によって密林の主を倒したという報告だった。前線部隊は『原生林』への侵攻、そして近日中に準前線部隊は密林ステージでの活動を行うことも書かれていた。その為俺は密林での戦闘に備え、有用なアイテムを片っ端から集めていた。『ゾウフクカ』はその一つで、今日も一人でアイテムを集める予定だ。
「そろそろみんな起きる時間だろ?早く行こうぜ」
集会所を出て部屋に戻ろうと歩き出す。
「あ、お前の部屋、行ってもいい?」
「……好きにしろよ。俺は出掛けるからさ」
俺は呆れた様に答え、集会所を後にした。
11月4日
密林〜一番エリア〜
ついに準前線部隊が密林エリアへ突入出来る様になってから数日、俺達は任務遂行に向け密林へと足を踏み入れた。
あの時(強調)とは違い、鬱蒼としていた木々の葉は暖色となり、ひらひらと舞い落ちている。
落ち葉で埋められた地面を歩き、四人で進んでいく。
「いやー、秋晴れってきもちーね」
伸びをしながらミソラは空を仰ぐ。
「おいおい、物音一つしねぇぞ」
「というか小型モンスターもいないね」
坊主とビースはキョロキョロと周りを見る。
「にしてもミソラも、おめぇも武器デケェな」
坊主はミソラとビースの背負っている薙刀と大斧を指差しながら指摘する。いやお前の背負ってる大剣も大概だろ……二人もそう思ったのか後ろを振り返り、坊主の方を向く。
「「それはお前もな!!」」
二人の声が重なり、密林に響くいた。
密林〜3番エリア〜
そんなこんなで話をしながら目的地付近まで歩いてきた。その際に一番後ろ歩いていたのだが、よく見るとこのチームメンバーの武器は全体的にリーチの長い武器を使っている事に気づいた。大斧や大剣はそこそこのリーチがあるし、薙刀も長槍に近い形状でこの中じゃリーチが最も長い武器だ。俺の太刀もかなり長い刀だがミソラの持っている薙刀より小さいだろう。目視での判断だから何とも言えないが、多分そうだ。一瞬思ったのはヒットアンドアウェイ戦法が有用だから。いろいろな部位を攻撃しやすいから。リーチの短い武器よりもモンスターに密着しない……まぁ大体ここら辺だろう。特に最後のモンスターに密着しない。ここが一番大きいだろう。死んではいけないという状況においてモンスターに限りなく近づいて攻撃するというのはとてつもなく強いストレスだ。間合いを保て、一応ガード出来る武器であると言う安心感はこれからいつまで続くか分からない戦いの中ではとても重要なものだ。
「お……みんな、見つけたよ!」
ミソラの声に意識を戻す。
そこには討伐依頼に書いてあったモンスターで唯一麻痺器官を持った小型モンスター『パナポス』の群れだ。
「全部で36匹か……一人9体ペースでやるか」
俺は太刀を取り出し、右手に持つ。
「よっしゃ、じゃあ誰が多く倒せるか勝負しようぜ!よーいスタート!」
坊主は背負っいた大剣を抜刀と同時に群れの中に突っ込む。
「ちょっと坊主!任務中だよ?」
「そうそう、簡単な任務だけど遊びじゃないんだから」
ビーズとミソラが坊主の後ろを走る。ミソラはこの勝負には乗り気の様だ。
俺も急いで群れの中に入っていく。
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