十八話「準前線3番隊」

10月15日。

〜草原7番エリア〜


「ピャー、ピャー」


小さな体躯ながら、それなりに発達した足と顎。

犬の様な耳がついており茶色と黒色の体毛が斑模様についている。こいつの名はマダラヒョウ。

6、7匹の群れで獲物を襲う習性があり、現在俺と二人の準前線プレイヤーがこいつらの群れに囲まれている。


「おい、おい……やべぇよぉ」


巨大な斧を持ったスキンヘッドのビースがプルプルと体を震わす。


「おい!今更びくびくしてんじゃねぇよ!こいつら倒せば今日の任務は終わりだ……」


自身の体ほどあるバスターソードを両手で持つこの男はVorz。みんなからは坊主と呼ばれている。

その二人と一緒に俺、K1はマダラヒョウに囲まれていた。


「おいK、こいつはどうやって倒せばいいんだ?」


坊主が俺に聞いてくる。


「二人とも少し落ち着こう。こいつらは一匹ずつ倒していけば問題なく倒せる。小型モンスターで攻撃の威力もかなり低いから、そんだけガチガチの装備なら突っ立ていない限り倒せるよ」


「お、落ち着けっていったて〜」


ビースはいまだに手の震えが止まらない。


「一匹にフォーカスを合わせるんだ。一気に倒そうとするんじゃなくて、一匹を短時間で倒すイメージ。二人の武器は広範囲を攻撃出来る武器だけど、今回は戦闘の基本を忠実に守るんだ」


俺は群れの中の一匹に刀を抜き突撃する。群れの中の一匹が俺に噛みつこうと四足歩行の足で地面を蹴り、空中に跳ぶ。それと同時に跳んだ仲間の両隣も俺へと攻撃を始める。


「ふっ」


最初に跳び始めた真ん中のマダラヒョウを先に斬り、その勢いのまま右手側のマダラヒョウに刃を食い込ませ、右に重心をかける。それと同時に食い込ませた刃が右手のマダラヒョウを切り裂く。俺は一歩引き、左手側のマダラヒョウの攻撃を躱して左手で首を掴む。


「よいしょ……っと」


そのまま右手に持った太刀で貫き、息を絶やす。


「す、すげぇ……」


「凄い……やっぱりK君はレベルが違うや」


二人は驚いて俺の方を向き、立ち尽くす。


「二人とも、後ろ来てるぞ」


俺の忠告で振り向く二人、その二人に残りの五匹のマダラヒョウが襲いかかる。


「「ヒィィ!」」


二人は目を閉じ、両手で持っていた武器を離す。マダラヒョウに襲われ、地面に背中をつけている。


「た、助けてくれ〜」


二人共ちょっとしたパニックだな……俺はすぅと息を吸う。


「二人共、HPバー見てみろ!」


俺は両手を口を囲み、拡声器の要領で二人に呼びかける。


「え……HPバー!?えっとえっと……これか!」


坊主が自分のHPバーを見る。


「……ってあれ ?全然減ってねぇじゃん」


「え?あ……ホントだ」


坊主とビースは自分のHPバーが削れていないことに気づく。


「早くそいつら倒しちゃえ〜そいつらの攻撃なんてたかが知れてるぞ」


そう言うと二人はニヤリと笑い、マダラヒョウを跳ね除け、地面に落ちた武器を拾い上げる。


「はっはっはっはー……お前らはこのVorz様が薙ぎ倒してやる!」


「ふ、ふん!お前らなんか僕の前じゃ敵じゃないやい!」


二人の声に活気が混ざる。

全く調子のいい奴らだ。

その後二人は攻撃を少し喰らいながらも、マダラヒョウの群れを倒すことに成功した。


「任務成功だ。帰ろう」


俺は帰路を歩こうとするも後ろの二人はぜぇぜぇと息が荒れている。


「マダラヒョウ20匹討伐は大変だったか?」


俺の問いに汗を流した坊主とビースが答える。


「そりゃ……きついに……決まってんだろうがよ……はぁはぉ」


「もお……まじ無理動けない」


ビースの方は完全に体力を使い切った様だ。仕方ないな……俺はビースに肩を貸し、立ち上がらせ、帰路を歩く。


「おいおい、ちょっと待ってくれよ!置いてくな〜」


坊主は寝そべりながら俺に言う。


「大分ゆっくり歩くことになるから大丈夫だよ。それに長居してると獰猛な夜行性モンスターに襲われるぞ。早く!」


俺は後ろの坊主に言って、また帰路を歩いていく。


「……わーたって!俺も帰るって!」


坊主は俺の後ろをとぼとぼ歩きながらもついてくる。



〜集会所〜


「あ、みんな帰ってきた!って二人共大丈夫!?」


肩にかかる黒髪に大きく丸い目、うちのパーティーの紅一点であるミソラがヘロヘロの坊主と俺が肩を貸していたビースを見て心配している。


「へっ……楽勝よ……」


「も、もう動けないよ……」


二人共肩で息をする。


「今日は二人にほとんど任せてみたけど、腕上がってたよ。これぐらいの実力があれば草原の大型モンスターなら十分戦えるんじゃないかな」


「本当?二人共凄いね!やっと二人も私のPSプレイヤースキルに近付いてきたかな」


ミソラは嬉しそうにはにかむ。和やかな雰囲気が流れ、活気のあるいいチームだ。

俺は今、準前線3番隊に所属している。ヴィスターを中心に作られた準前線部隊の一つだ。ミソラはユイのゲーム友達で、ユイと一緒に前作のMWをプレイしていたらしく、このゲームでも強かったことから前線にいたらしいが、『薙刀』という武器を使うプレイヤーだった為、討伐隊には入れなかった。ソロでぼちぼち任務を遂行していたそうだがロウガロクの目の当たりにして一度前線を離れたっきり前線には顔を出さず、準前線プレイヤーとして活動していたそうだ。

そしてVorzとビースは今回の部隊編成で仲間となった二人だ。口は悪いが悪いやつではない。GMWをするために二度目の値下げが行われたエンターワールドを購入したそうだ。

早速GMWのログイン戦争に参加したものの、中々入れず、なんとかログインに成功するも初めてのVRゲームの操作に戸惑ってしまい、1時間ほどまともに動けない状態が続いたらしく、やっとの思いで広場に行ったらパニック状態で散々だったそうだ。

俺はこの三人と任務をすることになって二ヶ月程が経ち、段々とステージの草木も紅く、また黄色や橙色の葉となり、枯れ果てた木も少し見え始める様になった。

集会所の入り口から冷たい風が通り、俺は少し身震いをした。

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