二十六話「白銀の丘」
「おらミソラ、いつまでも泣いてんじゃねぇ。うるせぇんだよ」
Vorzはぶつぶつと呟きながら寒空の中を歩く。
俺はミソラの肩を持ちながら、Vorzの後ろをついていく。
「お、おいVorz…それは言い過ぎだろ……」
「ウルセェなK!お前は知らねえけどこっちは気が立ってしょうがねえんだよ」
苛立つVorzに俺は何も言えない。
「……くん、K1君。もう私歩けるから」
ミソラの掠れた声が聞こえ、ゆっくりと貸した肩を戻す。
「大丈夫か?」
「うん、ちょっと精神的に参ってただけ。Vorzの言う通り、群狼獣《バイローフ》を倒しに行こうよ。今はそうするしかないだろうし……」
ミソラがVorzに怯えてる。肩が震えているし、目も虚ろだ。明らかに恐怖に支配されている。
……どうすればいいんだ?
俺は今何を言って、何をしてどう現状を変えればいいんだ?
……こんな時にぱっと最適な行動を取れる人が本当に有能な人なんだろうな。
今の俺とは大違いだ。本当に……
重苦しい空気の中、小高い丘を登り終える。
「あそこだ。あの丘に見える奴らだ」
Vorzの指差す先に目をやると、白い地面に銀色の体毛を震わせながら紅く光る眼を輝かせる猛獣の姿があった。
体は小さいが、鋭い牙が見え隠れしている。見た目もそうだがそれ以上に恐怖に感じるのは丘の下まで続く白と銀のコントラストだった。いや銀色の比率が多いだろうか。地面を覆い隠す程の群れ……ざっと見ても200匹以上はいる。ハイエナのようによく飢えた目と痩せた体がより野生を感じさせる風貌だ。そんなモンスター達は寒冷地の地に這いつくばる。
「これ……やめろVorz!こんな……無謀な事はやめるんだ!明らかに無理だ!ビーズのかたきうちをするにしても体制を立て直してからじゃないと……」
「黙れ!ビーズは俺のダチだ。お前らからしたら他人かもしれねぇけどな……ガキの頃からの付き合いなんだよ。それに今の俺は死ぬかもしれねぇとは微塵も思わないぐらい自信があんだよ」
俺の忠告を吹き飛ばすほどの大声で答える。声色からビーズを助けてやれなかった自分の無力を悔いているのが分かってしまう程感情が溢れている。
「あっ、おい!Vorz!」
Vorzは群狼獣の集まる丘へと走っていく。Vorzの足音が聞こえたのか群狼獣達はVorzの走ってくる方を向く。
Vorzの姿が見えると同時に、群狼獣達は獲物を取り囲もうと円陣に囲いを作る。
「群れることでしか狩りも出来ねぇ奴らがよぉ。イキがるんじゃねぇ!」
背中の大剣をVorzは両手で持ち構える。
ダメだ……この数は倒し切れる自信がない。でもあのままじゃVorzは……間違いなく骨一つ残らず平らげられることだろう。
「行くしかない」
これ以上仲間は……失いたくないから。
「ミソラ、俺行ってくるよ」
「待って!」
ミソラは叫ぶ。
「私も行く。死ぬときは一緒だよ」
覚悟を決めたその面構えは今までで一番真面目な顔だった。
「よし、行こう」
俺はミソラの手を握り、丘を降りていく。
それと同時に群狼獣はVorzを襲う。
「うぁあああ!」
Vorzが群れの中へ突っ込んでいく。
「マズイ……!」
俺は地面を蹴り、Vorzの方へ跳ぶ。
Vorzの一振りで何匹かが斬り飛ばされるが、また斬り飛ばされた以上の群狼獣が空いたスペースに入り込んでくる。一列に並んだ首を太刀で切り落とすほどの鋭い一撃でVorzの近くの群狼獣を蹴散らし、Vorzの元へ駆けつける。
「死ぬ気が馬鹿!それにこういう敵には囲まれるところに陣取らないで壁際で処理しろって言っただろ!」
俺の言葉に唖然とするVorz、そこを襲おうと群狼獣が牙を剥く。ミソラはその口腔に薙刀が突き刺さして振り払う。
「死ぬ時は一緒だよ。私もビーズの仇取らせてよ」
「ミソラ、K……」
Vorzは少し頬を紅潮させながら自らの頬を叩く。
「よっしゃ!行くぞ!」
Vorzは声を張り、大剣を構える。
そうだ、いつも通りなんも考えず、何も迷わず、ひたすらに必死で全力なお前の斬撃とも打撃とも言える一撃で群狼獣を倒すんだ。
そして俺達三人対200匹の群狼獣との戦いが始まった。
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