十三話「雨の降る夜に」
灰色の雲から大粒の雨が降る。
地面の
その水滴はフウユガルの攻撃によって一種の凶器と化していた。
「くそっ……いてぇよ」
前足の鉤爪の形状をした皮膚に入りこんだ水滴が高速で俺や耐久値のあるオブジェクトに叩きつけられている。
攻撃の際に追撃として俺にダメージを与えており、HPを回復する為ポケットに突っ込んだヒールリーフに手を伸ばしながら攻撃を続ける。
しかし怒り状態になり、動きが素早くなった事で数回に一回攻撃が掠るようになり、HPが徐々に削られていく。
そして動きが速くなった事で俺の攻撃が当たらなくなっていく。フウユガルの動きの速さもそうだが、雨によって体力が奪われ更に体力が限界に達し、太刀の一振りも遅くなっている。雨のせいか装備もいつもよりも重く感じる。
次の攻撃、……?あの予備動作は一体なんなんだ?今までのどの攻撃にも見られない予備動作だ。
フウユガルは前足を上げ、上げた前足を地面に叩きつけながら舐めるようにスライドさせ、地面の小石や土を高速で飛ばしてくる。すんでのところで障害物の後ろに隠れる。
この攻撃のための形状だったわけか……前足だけ違う形状をしていたのはこの攻撃のため……
その後もHPを削られてはヒールリーフを使い、また削られてはヒールリーフを使う。その繰り返しの中、体力だけ削られていく。
駄目だ。体が……もう
「ツイてないな……」
ぼそっと口からこのセリフが出てくる。
違う、そうじゃないだろ。ツイてないとか、運が悪かったとか……そういうのは言い訳なんだ。敗者が負けを正当化するためのくだらない妄言であって俺がそんな事を口走るのは……自分で自分が許せない。
俺は唇を強く噛む。
唇が切れる痛みが身体中に伝わる。
ピェァァァァァ
鼓膜を刺激する高音の咆哮と共にフウユガルが前足で俺を薙ぎ払おうと後ろ足で地面を蹴り、勢いをつけて俺へ突撃してくる。
「ああああぁぁ!!」
俺はフウユガルの攻撃を躱し、絶叫しながら顔に一振りを当てる。仰け反ったフウユガルの顔に次いで一撃、一撃、さらにもう一撃、そして更にもう一撃……合計五連撃の斬撃を顔に打ち込み、更に右眼に太刀で突き、ぐりぐりと押し込む。
フウユガルはこの波状攻撃に顔をブンブンと振り、俺を振り払う。手をつきゆっくり立ち上がる。
「俺は負けない。その覚悟は誰よりも強いつもりだ!」
太刀を両手に握りフウユガルと向き合う。
それと同時にフウユガルの怒り状態が解け、疲労状態になり動きが鈍くなる。そしてフウユガルはノロノロとエリア移動しようと背を向ける。
「逃がすかぁ!」
俺は尻尾を斬りつけ、頭に向かいながら両手で握った太刀を力任せに振り、フウユガルに攻撃する。
今……俺が動けているのは意地とか意志といった抽象的なものによるものだ。
あと1分、いや40秒も動けば俺は身体を動かす事が出来なくなるだろう。直感的にそう感じる。
フラフラになりながらも俺は太刀を振るう。
フウユガルは残された体力で逃げようと足をひきづりながら密林の奥へと進んでいく。俺もフウユガルもおぼつかない足取りに薄い呼吸。
もはやどちらも
フウユガルがあと数メートルでエリアを移動する。
俺は後ろ足を切り刻むように攻撃するも、足を止めることはない。
「くそっ、もう動くんじゃねぇよ……」
文句を言う口も段々と弱々しいものになっていく。
だがそんな状態であっても決して太刀を振るう腕を止めることはない。ここまで弱らせたんだ。今、こいつを倒さなければチャンスを潰す事になる。それに何より……他の人達にパーティーメンバーを目の前で殺される経験はしてほしくない。
「このままくたばれ!」
太刀を後ろ足に刺し、体重をかける。
フウユガルは苦しそうに悶絶しながら、動きを止める。
今だ!
太刀をフウユガルから引き抜き、左手で灰色の体毛を掴む。
「これで……終わってくれ」
太刀を構える。
フウユガルの胴体の中腹に刃先を突き刺し、首元にかけて突き刺した刃を一本の線の様に斬り通す。
一度太刀を引き抜き、両手で
振り下ろした先はフウユガルの頭と短い首との境目、そこに磨かれた刀身が飲み込まれる様に入り込んでいく。弱っていたせいか肉質はかなり柔らかくなっていた。
「その首、落とさせてもらうぞ!」
叫びながら力を振り絞り、俺は出せる限りの力を刀にのせる。数秒、俺の刀はフウユガルの首と胴体を真っ二つに切り離した。首を
俺はその勢いのまま地面に倒れ込んだ。
ピチュピチュ……
降り注ぐ雨が俺の体に落ちてくる。
地面には水溜りが形成され、灰色の雲の後ろに飲み込まれそうな暗黒が広がる。メニュー画面で時刻を確認すると既に20時を回っていた。
そんな中、俺はフウユガルの死体のそばで仰向けに倒れたまま、フウユガルの胴体から流れる血と雨によって形成された水溜りに身体を委ねていた。
「もう……一歩も動けないや」
もうそろそろ夜行性のモンスターがフィールドを徘徊する頃だ。早く……移動しないと……俺は立ちあがろうと手を持ち上げる。しかし体は地面から離れない。
ダメだ……こんな所で……意識がどんどんと遠のいていく。
俺は、まだ……
天へと伸ばした腕は
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