十一話「密林に潜む影」
〜密林 1番エリア〜
草木と樹木が生い茂り、背の高い木が林立している。明らかに草原ステージよりも木が多く、そして木そのものもかなりデカい。草原の9番エリアとは違いひらけており、木々の隙間から光が射している。
そんなステージを歩きながら、周りに採取出来る場所を探していく。
「この窪みも採取エリア……っと」
マップに採取エリアを記録していく。
後ろの三人はただ黙って俺の後ろをついてくる。なんか変な気分だな……それに三人で何か話してるし、何の話してるんだ?気になりつつもモンスターに警戒しつつ、2、3、4、5番エリアと進んでいく。
エリアを進むにつれ、段々と木の間隔が狭くなり、日も入らなくなっていく。
今は6月の下旬のせいか、空気が湿っぽい。
VRゲームらしくこのゲームにも四季があり、現実世界の日本と四季がリンクしている。今日はあの日から三ヶ月ほどが経った。なので6月の29日辺りだろうか。
今、もし俺が現実世界にいたら家の近くの高校に通って、雨かよやだなー……なんて言いながら通っているのだろうか?って俺は何を考えてるんだ。
今はただ目の前の事を集中するんだ。俺は段々と
よし、とりあえずここまでかな。
数時間が経ち、木々の隙間からさっきよりも日が落ちていることに気がつく。
もうすぐ夕方か……にしてもやけに静かだな。
そういえばあの三人は……ってあれ?誰もいない。あの三人は?
周りを見てみるが人影すら見えない。もしかしなくても……はぐれた?
「おいおい、やばいぞ。さっきまでのステージ結構広かったのに」
日が落ちたらこちらの身も危ない。俺は来た道を引き返しながら、出来るだけ大声を出しながら、呼びかける。
「付き添いの三人さん〜俺はここですよ〜」
名前が覚えられずこんな呼びかけになってしまう。
しかし一向に返事は返ってこない。そして二番エリアまで戻ってきたが人影すら見ていない。
「困ったな〜このまま帰る訳にも行かないし……」
どうしようもなくなり、地面を見る。
その時地面にキラリと光る物体を見つける。
「何だこれ?」
手に取り見てみる。
「これって……」
これは……クロスボウの弾?
商店で売られていたものと頭の中で確かに合致する。
ガサッ
草を踏みきる音、こちらに近づいていく。
「誰だ!」
向いた先、こちらに向かってくる何か。俺は刀を抜き、構えを取る。
木々の影から出て来たのは俺の後ろについていた三人のうちの一人、名前は知らないが多分最後に紹介されたやつだ。彼は俺を見つけ、叫ぶように話す。
「K1さん!ここやばいっス!はや……」
轟音。風を引き裂くような音、その音と共に黒い影が彼を覆う。眼前には夥しい切り傷とHPバーが0と表示された姿がそこにある。その際に出来た衝撃波に吹き飛ばされ、身動きのできない内に木に衝突する。
「痛った……」
思い切り背中を木にぶつけ、地面に尻餅をつく。
突風、襲いかかる獣。
ペキ、メキャ
間一髪避けた攻撃によって木が折れる。
俺は這いつくばりながら木の影に隠れる。
今のは何だ?あの突風は一体?
そしてその答えは眼前の化け物にあった。
「あれは……
しなやかなで長い胴体に、小さな耳。全身は灰色の毛に覆われ、ギラリと鋭い眼を光らせる。
そんなフウユガルは辺りをキョロキョロと見渡している。
襲ったはずの獲物が無いことに気づき探しているのだろうか。
しかしフウユガルは夜行性のモンスターの筈だぞ。何でこんな昼間に……?
俺の気配に気づいたのかこちらを振り向く。
「やっべぇ」
俺は全力で隠れていた木から離れる。
鼓動が早まっていく。
後ろから木の軋み、折れる音が聞こえてくる。追いかけられている!
……ダメだ。逃げれない。今日の探索で体力を使い、このモンスターから逃げ切るのは……はっきり言って無理だ。
走るのをやめ、刀を構える。
もう、やるしかない!
追いかけて来たフウユガルは俺に向かって飛んで、いや跳んで襲いかかってくる。
とりあえず一刀、打ち込むしかない。
意識を刀に集中させる。アーチ状に
姿勢を低くして腹に飛び込む。
「これでも……喰らいやがれ!」
その勢いのまま、刃を立たせ、腹に一筋の切り傷をつける。
ア゛ギャオン!
フウユガルはその場に転げ、しだばたと四つの足を振るう。
斬りつける時、一瞬ではあったがこのフウユガル、何か不審な点があった。それは顔に大きな傷、そして体のそこらに大量の弾痕が見えた。しかも弾痕はまだついてからあまり時間が経っていない。
まさか、クロスボウ使いのあの三人を襲ったのは……こいつ?
信じたくないが、あの三人は俺とはぐれて探している最中にこいつに出会ってしまい二人はやられ、生き残った一人が逃亡した先で俺が呑気に大声を出しているところを見つけた時に俺の目の前で……死んだ。
刀を握る力が強くなる。
それと同時にフウユガルはじたばたをやめ、四足歩行の状態に戻る。
「くそ……プログラミングされた電子情報如きが、人間に逆らうんじゃねぇよ!」
思わずらしくもない言葉を電子情報のモンスターへ投げかける。このゲームで死んだプレイヤーは別に殺される訳じゃない。特殊実験とやらに参加するだけだ。だがそれの詳細が分からない以上、死の危険性もある実験だという推測が建てられているだけだ。そしてその可能性は現在、非常に高いとされている。
この世界で死んだプレイヤーは二度とこのGMWの世界戻ってこない。そういう認識で今、前線にいるプレイヤー達は考えている。なんなら俺だってそういう見解だ。現実に死んだプレイヤーを一度として見たことはないし、データ上からも抹消されている点から考えればそう考えるのが自然だろう。
あの三人は……俺がヴィスターからの願いを断っていれば死ぬことは無かったんだ。もしくは俺がコミュニケーションを取って探索していれば……
俺のせいだ。マルチプレイによってどこからか生まれた責任が肩に重くのしかかる。
「やってやる……」
その重荷を抱えながら今、このゲームに抗うために、俺は戦うんだ……
俺はフウユガルに
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