十話「本番」

あのロウガロクとの戦いから一週間……

少し長い休暇と資金集めを経て、現状最強の太刀を鍛冶屋に作ってもらい、装備も少しいいものをこしらえた。

草原の主を倒し上級任務が追加されるようになったから遂に全プレイヤーにアーマースキルとフリースキルが解禁され、現在全てのプレイヤーが着用している装備にもアーマースキルが付与されている。

正直ゲームを始めた当初、あの一件で完全に頭から忘れさっていたのだが。

そんなことを思い出しながら、フリースキルを何にしようかと悩む。

そしていつも通り、集会所へと向かう。

入った直後、そこには討伐隊の上層部が立ちはだかっていた。


「……何か用ですか?」


討伐隊の厳つい体つきの男達が俺を見下ろす。


「あそこでヴィスターさんが待ってるんで任務に行く前なら先に寄って下さい」


男の指差す方向に巨大な盾に長槍を抱えた男が座っている。


……一体討伐隊のトップが俺に何の用だ?

俺は集会所の株のデザインの椅子に座る。


「いきなりすまないな」


よく見ると顔にしわがあることに気づく。髪も若さを感じない。


「何の用ですか?」


俺の問いに一瞬目を瞑る。


「君とは初めてだ。知っているとは思うが自己紹介を。

私は討伐隊の隊長を務めているヴィスターだ。この手のゲームは30年以上やり続けている」


「さ……三十年?でも三十年前にVRゲームは……」


ヴィスターはチッチッと指を振る。


「オンラインゲームを三十年だ。君のような若い子は知らないかもしれないが、十年前にサービスが終了してしまったとある動画投稿サイトがあってね、そのサイトでオンラインゲームの実況をやっていたのだよ」


十年前……俺がまだ5歳とかの時か。だとしたらこいつは……


「あんた……何歳だ?」


俺の問いを待っていたかのようにすぐに答える。


「今年で58歳だ。仕事はさっき言ったが実況者だ」


ご、58……、正直若くはない年齢だ。


「君は確かK1という名前だったか。話には聞いているよ。あのロウガロクの任務を遂行したと」


「ああ、ユイと一緒に倒した」


俺は短く答え、前髪を整える。


「そうか、ところでK1君」


「ん?」

俺は前髪を整え終わり、右肘をテーブルに置く。


「このゲームのユーザー年齢の分布は知っているかな?」


「ユーザー年齢の分布?」


予想も出来ない質問に首を横に振る。


「そうか、それじゃ今の現状を説明する。まずこのゲームをプレイしているユーザーの3割は前期高齢者だ」


……は?

いやいや、アクション系のVRゲームをそんな老人が……

そう思った直後、ヴィスターからメールを受け取る。そこには一枚のPDFが添付されていた。

そこには円グラフが書かれており、そこには3割以上が60歳以上という受け入れ難いデータが書かれていた。


「その情報はこのゲームのプレイヤーデータを全て集め、まとめた結果だ」


「3割強が還暦迎えてるって……」


俺は言葉を失う。


「今や老人も当たり前のようにゲームをする時代だ。エンターワールドの売上で最も貢献しているのは40代〜60歳以上の独身とさえ言われているし、入院していて暇な老人達はVRゲームに明け暮れているという話も聞く」


「それじゃこの老人達は一体どこに?」


俺は嫌な予感が頭をよぎる。まさか、この老人達は……


「8万人の内の3万人は老人だと言ってもいい」


俺の感情からヴィスターは俺の考えを言い当てる。だがそれが本当なら……もし一万五千人の前線プレイヤーが全滅したらこのゲームをクリア出来るものがいるのだろうか?


「君も分かっていると思うがこれ以上前線の犠牲者を出すわけにはいかない。そこでなんだが……」


ヴィスターは俺に提案する。


「討伐隊の三人を君のパーティーに加えて頂きたい」


はっきりと言い切り、頭を下げる。


「討伐隊が俺とパーティーを……?」


「そうだ、君は太刀使いだからクロスボウの兵士を三人提供しよう。君一人でこれから未曾有の強さを持つモンスター達と渡り合えるかは私達にも分からない。その為にも四人パーティーを組んだ方がいいと思うのだが」


確かにそうだ。

正直これから出てくるモンスターの強さは俺にも計り知れない。


「……とりあえず一回だけ試していいか?パーティーでプレイするのは慣れてないんだ」


こうなるならパーティープレイに慣れておくんだった。

ゲーム歴は今年で七年になるが複数人でプレイするゲームは一度もやってこなかった。一応5vs5のタクティカルシューターは二年程やっていたが、野良専だったからパーティープレイとはとても言い難い。


「構わない。それじゃ手配する」


ヴィスターはメニューを開き、操作する。

そして暫くするとクロスボウを抱えたプレイヤーが三人、集会所に現れる。


三人とも男で同じような装備に同じような顔、そして同じような体型で見分けがつかない。


「えーっと〜」


「左からミソジ、チカチカ、竜だ」


三人から挨拶をしてくれたが全く覚えられない。


「と、とりあえず行ってみます」


「ああ、何かメンバーが迷惑をかけたら私に連絡を」


そのまま男三人を連れ、俺は集会所を出る。

今回は新しいステージである『密林』の下見と金稼ぎのための採取場所の探索の為に行くだけなのだが……いて損はないのだろうけれど、やはりパーティーでのプレイは慣れない。俺はギクシャクしながらも密林へと向かった。

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