第12話 彼女の視覚は俺の視覚

すでにお店には人が入っていた。

みんなには17時半に集合とかずやから連絡をしたようだ。

ここで早く行き過ぎるのもかずやには悪いか。


駅前で18時までの間、コーヒーを飲みながらしばし時間を潰していた。

交差点で歩いている人をぼおーっと見ていた。

みんなこれからどこに向かっていくのだろう。

飲みに行くのだろうか。

愛する人のもとへ帰るのだろうか。

隠れてこっそりと誰かにあうのだろうか。

一人の世界に戻るのだろうか。

それぞれの世界。

いろんな人がいるのだろう。

いろんな視覚があるのだろう。

たくさんの映像が世の中に溢れている。


でも、そんなに興味はない。俺が興味のある映像はまなみだけだ。


もうみんな集まっていた。

かずやが動き回っている様子が見えた。

まなみもいろいろと動いているようだった。里見もいた。

まあ、何とかなるだろう。


もうそろそろいいかな。

お店に向かい扉をカチャッと開けた。


「おー主役の登場だ」

「お疲れさま~」

「あれ、髪スッキリしてる」

結構人が集まっていた。すぐにまなみを探していた。

まなみもいた。ちょうどかずやを手伝っているようだった。


かずやが近付いてきた。

「たつやさんお疲れ様です、さあ、こっちに座って。主役席ですよ」

「ありがとう」

「只今より、たつやさんの送別会を始めます。早速ですがたつやさんから一言お願いします」

「今日は皆さん、俺のために集まってくれてありがとうございます。ここで働いたのは、えっと、確か半年ぐらいしか働いてないんだっけ。それなのに、こんな送別会やってもらえるなんて、本当にみなさんありがとう。今日は、楽しみましょう。かんぱーい」

「いやいや、乾杯の音頭はマスターにって思ってたんですけど、まあいいか。かんぱーい」

「あれっ、おいおい俺の出番」

「まあ、いいじゃないの、今日は主役を譲ってあげて」


ビンゴ大会、かくし芸、バンド、いろいろな余興をかずやが仕込んでくれていたおかげて、大いに盛り上がった。

「宴もたけなわですが、ここで中締めということで、今度こそマスターよりお願いします」

マスターがきっちりと〆てくれた。

「さあ、ここは一旦お開きにしましょう」

「二次会行ける人は駅前のカラオケに10分後移動してください」


「まなみさんも行くよね」

「うん」


「たつやさん行きましょ」

と里見がやってきた。


「おう、みんなで行こう、あれ、かずやは」

と里見の話を横切った。

「あっ、ちょっとこっち片付けてからいくんで」

「里見ちゃん、かずやの手伝ってあげて」

「はーい」

「じゃ、先行ってるね」


みんな懐かしのうたをうたっている。10代の頃よく歌っていた気がする。

俺の番が回ってきた。

「一緒に歌おうよ」

そういって、デュエットをまなみとした。

どさくさにまぎれて肩に手をそっと回した。

いい雰囲気。

歌いながら、まなみの中に入っていった。

さりげなく俺を見ている。そうだ、俺の顔だけを見つめてみよう。

まなみの目線を俺に注いだ。

俺の目には自分とまなみが映っていた。

思わず視覚の中に相合傘を入れたくなる。お似合いの二人だ。

お酒が進んでいく。

視覚に何度か入っているから、その分いつもより酔いが早いかもしれない。


あいまいな記憶の中、里見に何か言っている自分がいた。

何て言ったんだろう。カラオケ店を飛び出していった。


帰る途中、不意に里見のことを思い出した。

何だか見覚えのある風景。

なぜか目の前の自分の見ている視界が現れる。

なぜだろう。ハッキングしているはずなのに。

ふと人が現れる。見た格好の服、俺と一緒の服。


俺だった。

真っ赤な血が目の前に現れ、そしてすべてが消えた。













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アナザーハッキング~もう一人のストーリー~ 八末 梛 @hatisue

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