第10話 彼女の予定は俺の予定
バイト先のマスターが、仕事に復帰できることになった。
俺は期間限定でそもそも入っていたので、今週でバイトは終わりだった。
「かずや」が来た。
今日も一人だった。
「俺ここ今週で終わりだから」
「なんか悪いことしちゃったんですか」
「するわけないでしょ、期間限定だったの、ほらマスター復帰するから」
「そっかー、寂しくなるなー」
「そうだ、ママさん、今週末送迎会しましょうよ」
「あれ、そういうのって、俺にサプライズでやるんじゃないの」
「だって、今週でしょ。段取りは早いほうがいいでしょ」
「それって、俺よりも、誘うための口実なんじゃないの」
「ば、ばれましたか」
「あっ、そうだ。どうせなら多いほうがいいから、お姉ちゃんも呼んでよ」
「OKです。あれれ、もしかしたらたつやさん」
と言いかけて、ニヤニヤしていた。
「なに、なんなの」
「そういえばさ、なんか二人仲いいよね。なんかあれだね。俺も近くに住んでいたら、幼馴染とかで仲良くやってたのかな」
「そうですね、あっ、そういえば昔近所にいました。お兄ちゃんみたいな人。いつも一緒に遊んでたかな。もう何年も前だけど」
「へぇー、その人はどっか行っちゃったの」
「なんかね、親が捕まっちゃって、それでその日からどっかいなくなったんです。自分もちっちゃかったからあんまり覚えてないんですよね」
「そういえば、あの時しばらく姉ちゃんずっと家にこもってたなー」
そうか、やっぱり好きだったんだろうな。
「ふーん、その子はそれ以来見つからないの」
「時々姉ちゃんの口から出てくるくらいで、記憶にもなくなるくらい、もうあれっきり」
プラトニックラブ、いやちょっと違うか。会えないからこそ、会いたい気持ちが強くなる。相手がどんな人間になっていようとも、想像だけがどんどん膨れ上がっていく。勝手に自分の中でイメージをつくりあげていく。ここで断ち切らないといけない。
里見が入ってきた。
「こんにちは」
「おっ、里見ちゃん久しぶり」
「最近忙しいの」
「そうなの、いろいろやることいっぱいあってね」
「そういえば、今週末たつやさんの送別会やるんだけど、里見ちゃん空いてる」
とかずやが行った途端、里見はびっくりした顔をしてたつやに行った。
「えっ、どこ行っちゃうの、ねえ、外国」
「おいおい大袈裟な。マスターが復帰するからね。俺はそれまでの期間限定だったから」
「そうなんだー、なんか寂しい。今週末は絶対くる。何がなんでもくる」
「ありがとうね。そんなこと言われると、ちょっと泣きそう」
「うそ、泣かないくせに」
代わりにかずやが泣いたふりをしてみせた。
「おいおい、お前が泣くなよ」
マスターが奥から顔を出した。
「おいおい、そんなことされたら、また俺怪我しなきゃなんないだろ」
ママさんがすかさず言った。
「そうね、一本折っときますか」
「ちょっとリアルすぎる」
家に帰って、とりあえずテレビをつける。
そんな風に、家に帰ってとりあえずまなみをハッキングした。
お菓子を食べながらテレビを見る。
そんな風に暇つぶしに、とりあえず。
何か勉強をしているのだろうか。
急に振り返ってみると、そこにかずやがいた。
かずやが何やら説明している。きっと俺の送別会のことだろう。
うーん、何て言ってるんだろう。気になる。スピーカー機能はさすがに俺の能力にはついていないからな。つかないかな。そればっかりは難しいか。
きっと、来てくれるだろう。
もちろん行くよって伝えと言ってとかそんなこと言ってくれてるはずだ。
ブルッ、携帯が鳴った。
かずやからのLINEだった。
「姉ちゃん金曜OKです」
ナイス、仕事が早い。
左腕を曲げ、思わずヨシッといっていた。
金曜はいい一日になりそうだ。
バイトもそろそろ終わりたかったから、ちょうどいいタイミングだ。
かずやともお母さんとも仲良くなれたし、お父さんも俺のこと好感触に思ってくれてそうだし、まなみも今のところ俺には好印象を持ってくれてそうだ。
ザイオンス効果。
これでようやく発揮できる。
もう一つ俺は試してみたいことがあった。
まずはまなみが寝たのを確認してからだ。
夜になってから、何度かまゆみの視覚に入ってみた。
今日はなかなか寝ないようだ。
漫画を読んでいた。
これが好きな漫画なのか。少女漫画、やっぱり女の子だな。
俺も一緒に読んでいた。
読み始めるとなかなか面白くなってくる。今度、満喫でこの本を読んでみよう。
そして、瞼が下がってきた。なんだか俺も寝そうだったが、一度自分に戻って顔を洗った。
少し落ち着くためにお湯を沸かしてコーヒーを飲んだ。
「ふぅー。落ち着け、落ち着け」
そして、俺は子供の頃から今までのアルバムを取り出した。
普段より集中した。
今回は俺の視覚をまなみに共有させること。
まだ、試したことがなかった。
でも、こっちが見えるようになるのなら、逆もできるはずだ。
ゆっくり自分の視覚を押し出すように、そしてまなみに届くようにイメージした。
一度目をつぶり、ゆっくり目をあけ目の前にあるものを見つめながらまなみの視覚へと送り届けた。
「スパンツ」
何かがはじけるような、目が飛びだしていったような、そんな感覚だった。
まなみへの実況生中継のはじまりだ。
届かない音だけど、なぜか声を出して語りかけていた。
「これが、俺が生まれた時、そしてこれが初めて立った時」
「どうかわいらしいでしょ、うしろに映っているのが俺のばあちゃんだよ」
「これは幼稚園の運動会、で、これが小学校1年生かな。まだ坊主なんだよ、親父からバリカンで切ってもらっていたんだ」
「ここらへんで床屋さんにいってるかな、スポーツ刈りだよ」
「これがは中学生かな、だんだん顔が長細くなってきたでしょ」
「あっ、高校からツーブロックになってきた、これが俺の部屋だよ」
「ほら、だんだん今の俺お顔になってきたかな」
「これがたつやの顔だよ、よーく目に焼き付けてね」
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