第9話 内緒のブログ

「いただきます」

まなみの視覚で、朝食を済ませる。

今日も穏やかな一日が始まった。

パンと目玉焼き、そしてコーヒー。

「あちっ」

ぱっと離したコーヒーカップに思わず反応してしまった。


まなみの前に座っていたお母さんが覗き込んでいた。

「大丈夫」と言っているようだった。


そういえば昨日内緒のブログを書いているって言ってたっけ。

すごく気になる。そっか後で覗いてみよう。


デザインの仕事をしていた。

そうだ、頼んでいたチラシを作成しているんだとすぐに分かった。

昨日渡したラフ案をもとに作ってくれていた。

それは自分のイメージをはるかに超える出来だった。

やっぱ、まゆみのお母さんはセンスがいいんだ。


そしてキャッチコピーをいくつか考えていた。

パソコン上でいくつか書いていた。

そして、たまに画面を切り替えていた。


何か書いている。

なるほど、これが昨日言っていたブログだ。


「子育てブログ  一姫二太郎零母さん  一姫二太郎に春が来る」

そんなブログ名とタイトルだった。


なるほど、まなみとかずやで一姫二太郎か。春が来るっていうのは何だろう。

それは、最近の沢田家の出来ことだった。


太郎が女の子を連れてきた。ついでに男の子も。ひょっとして姫の男の子になったりして。

そんな感じで書いていた。

きっとお母さんは、俺のこと認めてくれてるんだな。

これはいける。


これ以外にどんなことを書いているんだろう。

気になってまなみの母親の視覚から離れた。


えっと、検索してみよう。

「一姫二太郎零母さん」と打ち込んでみた。

うーん出てこない。


何故だ。えっと、思い出せ、思い出せ。

そうだ、あのブログの中から検索してみよう。


もう一度、検索しなおした。

ヒット。


もう何年も書いているようだった。

最初はと。

もう10年くらい前から始まっていた。まなみがまだ小学生くらいか。

まなみとかずやの歴史。

俺が知らない世界がそこにあった。

まなみとかずやの言動に文句を言うお母さん。

いろいろな行動に突っ込みを入れるお母さん。

でも、その文章からは愛が溢れていた。


これは俺のバイブルになりそうだ。


あのお母さんの娘だな、やっぱりまなみは。


そして、一つ気になる人を見つけた。

三男という存在。


近所にいた子供。

一姫が恋焦がれていた男の子。


最初の頃、頻繁に登場していたが、ある頃からぷっつりとこのブログから消えていた。

一姫がなついていた三男。どう思っていたのだろう。


このブログから消えていたとしても、果たして一姫の心の中からも消えているのだろうか。

まなみの初恋。

何かお腹の中をギュッと締め付けられる思いだった。

その時まなみが見ていた映像を観たいと思った。

でも、その考えは一瞬で消した。


映像を見るのが怖い。


俺が、その記憶を塗り替えてやる。

昔のことなんて忘れさせてやる。

そうだ、まなみの横にいるのは俺なんだ。


しばらく、何も手がつかなかった。ただ、天井を見つめながら仰向けになっていた。

弟、そして両親。少しずつ彼女の周りを固めることができた。

時が満ちてきた。


そうだ、あとはまなみだな。

そうしてまなみのことを想った。


まなみは手帳を眺めていた。

ちょうどカレンダーを見ているところだった。


スケジュールをチェックした。

金曜、まなみは空いてるのか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る