第8話 彼女の両親は俺の両親
今日もいつもと同じ風景。
目の前には、お父さんがいてお母さんがいて、弟がいる。
まなみの視覚を通じてみている朝の日課だ。
朝は簡単な食事だから、最近は同じようなものを食べるようにしている。
まなみの視覚のままでも、食事をできるようになった。
今までは相手の視覚のすべてが自分の視覚に映っていた。
だけど、最近はテレビでよく映っているワイプのように、相手の視覚を自分の視覚の画面の一部で見ることができるようになった。
でも、慣れないせいかまるで二人羽織のように、時々どちらを見ているかわからなくなってしまい、食事は失敗してしまうことが多いのだけれど。
まなみの両親は会社を経営していた。
会社と言っても、デザイン会社で父親が社長兼営業兼デザイナー、母親は経理兼デザイナー、そして、その他に2人のデザイナーがいる小さな会社だった。それでも株式会社を名乗っている以上、立派な会社だ。だからまなみは令嬢なのだ。
さてと、両親ともうすぐ親しくなるにはどうしたらいいだろうか。
そんなことを考えながらバイトしていると、バイト先のママさんから相談があった。
「誰か知り合いでデザインできる人いないかな」
「お店のチラシでも作るんですか」
「このお店にそんなお金はないわよ、今度で地域でイベントすることが決まって、私役員になってるから、チラシ作んなきゃいけないのよ。でね、そこにかける予算はあるみたいで。でも私苦手なのよね。だから、誰かにまかせれないかなと思って」
「それ、俺代わりにやりますよ!自分でデザインできないけど、いろいろ考えるの好きなんで。それに、確かかずやの家の両親デザイナーだったから、ちょっと頼んでみますよ」
さっきまで、困っていた顔をしていたママさんだったけど、表情も急に柔らかくなっていた。
「そう、じゃーお願いしてもいいかな」
さっそく、かずやに連絡をLINEを送った。
するとすぐに返事があった。
「じゃー明日にでもうち来ますか、自分も明日なら空いてるんで」
「えっ、いいの」
「はい、最近うちの両親も暇そうだから」
「ありがとう」
「問題ないですよ。両親には軽く説明しとくんで」
かずやからの信頼は得ているようだ。
かずやは、美里とはうまくいっているだろうか。
少なくとも二人が仲良いうちは、俺がキューピットになったことを感謝するだろう。
今日は前回と違うレコードを持って、かずやの家に行った。
美里を誘ってみたようだが、何やら習い事があるとのことで、今日はこれなかったようだ。そのせいか、かずやは前回よりもテンションが低いような気もしなくもない。
「おじゃまします」
「こんにちは、どうぞ」
「すいません、今日お時間もらって」
「いいのよ全然、さあ入って入って」
ママさんから聞いたイベントの情報をもとに、昨日の夜は簡単な資料を作っていた。スムーズにやりやすく仕事をしてもらうこと。そして自分に対して好感触をもってもらうこと。
「これなんですけど」
そう言って、ラフも付けて資料を渡し説明した。あまり予算は出せないんですけど、と言ってスケジュールと予算を伝えた。
「全然問題ないわよ。ここまで資料も作ってあって、イメージもできているから、とても助かるわ」
「ってことは受けてもらえるんですか」
「もちろんよ、さあ、仕事の話はこれでおしまい、今日も良かったら食べてって」
「本当ですか、ありがとうございます。それじゃあ、お言葉に甘えよっかな」
「いいですね。じゃー、ごはんできるまでレコード聴きにいきましょうよ」
そう言ってかずやは俺を連れて部屋に行った。
レコードをかけてまったりしていると、かずやが話しかけてきた。
「里美ちゃんのことなんですけど」
そう言って、かずやは話し始めた。
どうやら、俺に恋の相談をしたくて、早めの設定にしてくれたんだろう。
「いろいろ誘っても、イマイチ乗り気じゃないというか、いろいろと理由を付けられて断られてばっかりなんですよね」
「単に忙しいだけなんじゃないかな、まあ、あんまり焦りすぎないようにね。ガツガツ行き過ぎると向こうも引いちゃうからね。押してダメなら引いてみなっていうでしょ。そのバランス、駆け引きが大事なんだよね」
分かった風なアドバイスをしてみた。
こんなことは恋愛になれていない子にだから言えるけど、そんな自分はどうなんだと言われると何も言うことができない。
でも、本には書いてあった。間違いないはずだ。
ふと、まなみは今何をしているのか気になり、彼女の視覚に入り込んだ。
先程、自分が歩いていた道が見えた。もうすぐ家に帰ってくるはずだ。
よしっと心の中でつぶやいた。
いつもの食卓、前回のことはあまり覚えていなかった。
それほど、緊張していたに違いない。
はじめてリアルな映像を見ることができたのだから。
今日はこの目でしっかり焼き付けておこうと思った。
「こんばんは」
「こんばんは、またお邪魔してます」
「いえいえ、こちらこそ親にお仕事ありがとう」
「なんか、たつやさん、めっちゃうちになじんでますよね、昔からうちにいるみたい」
「ありがとう、そんだけかずやの家族がすんなり受け入れてくれてるってことだよ」
「あら、いいこと言うわね、じゃあーお酒でもついじゃおうかな」
そう言っておかあさんがビールをついでくれた。
「最近、わたしブログ書いてるのよ。家族に内緒で」
すでに家族に内緒じゃないと思うんだけど。
「えっ、お母さん、そんなことしてたの」
「あっ、思わず言っちゃった、でも内緒、内緒」
よし、今度覗いてみよう。
「最近多いですよね。自分も始めようかと思ったんですけど、面倒くさがりやなもんで、ついつい3日坊主になっちゃいますね」
それはウソだった。
正確にはブログは書いてはいなかったけど、ツイッターで日記みたいなことは書いていた。
毒を吐く。
毎日ムカついたことをつぶやいていく。これはもう1年以上も続いている。
このおかげで自分の情緒が安定しているのか、それともハッキングのおかげなのか。とにかく、これだけは3日坊主にならずにすんでいる。
「そういえば、最近、和哉の影響で洋楽聞いてるの、こないだ聞いていたの以外に、お薦めとかある」
彼女が俺にしゃべりかけてきた。こんな自然な感じ。
そうだ、初めてあった時もこんな感じだったっけ。
「そうだな、どんな感じなのが好きとかあれば」
「そうね、なんか夢が叶うかもって感じのがいいかな」
「了解、じゃー今度夢が叶いそうな曲ピックアップしとくよ」
次回に繋がる会話、これだよ、かずや。そう言いたい気持ちをグッと抑えた。
「お父さん、お母さん、今日はありがとうございました」
「いつでもまた食べにおいで」
「ありがとうございます。あと、デザインに関しては、また連絡お待ちしています」
「あっ、そうだ。連絡先どうしましょう。今後のやりとりはLINEで言いですか」
「そうね。できあがったらLINEに連絡するね」
そういって、お母さんのLINEをゲットした。
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