第7話 彼女とのデートは間接デート

はじめていく彼女の家。

もう前日から震えがとまらなかった。

ここまで順調に進んでいる。

本当にうまくいきすぎているのではないかと少し不安になった。


駅まで迎えにきてくれるようで、3人で駅に待ち合わせをすることになった。

何だろう、この感覚。今まで、こうして待ち合わせとかしたことはなかったから、少しうれしくもあった。俺にもこんな感覚があったんだ。

やっぱり彼女のおかげだ。


歩いて駅から10分くらいのところだった。

この風景は何度も見ていた。

でも、こうやってリアルに見たのは初めてだった。

この香り、この音、映像しかなかった風景が、こんなに広がりを見せるなんて、改めて今日という日がうれしかった。


「ただいま」

「おじゃましまーす」


築10年くらいだろうか。綺麗なお家だった。

玄関も広い。玄関が靴でごちゃごちゃしていると、どうも萎えてしまうのだが、玄関はすっきりしていた。


早速、かずやの部屋に案内してもらった。

かすかに遠くで声が聞こえた。


「えっ、かずや、女の子連れてきたの。どんな感じだった、えっ、もう一人いるの。えっでもみたいな~、私あとでお菓子もってく~」


かずやの部屋もきれいに片付けられていた。

きっと、この家族はみんな綺麗好きなんだろうと思った。

まなみの部屋もきれいたっだし。


さっそくレコードプレーヤーにドアーズの音を流した。

「ダダダッダダーダーダダダー、ダダダッダダー、ダダダダー」


「おっーいいね、ぜんぜんいい。CDで聞くより断然いい」

「すごーい。レコードってすごい」

「なんか最高」

そう言いながら盛り上がっていた。


「コンコン」

部屋のドアが開いた。


「こんにちは、お菓子でもどうぞ、あっ、和哉の姉です」

「こんにちは」


俺はグッとこらえた。

こちらから気付いたと思わせてはダメだ。向こうが引いてしまう。

あくまでも向うから気付いてもらうまで待つんだ。


「あれっ、ひょっとしてこないだ電車の」

「えっ、あっー、確か、えっと、まなみさんでしたっけ」

「そうそう覚えててくれだんだ。それにしても弟と知り合いだったんだね」

「そう、高校の近くのカフェでバイトしてて」

「こちらの彼女は」

「あっ、同じクラスメートです」

「へぇー」

何だか意味深な感じだ。

それにしても覚えてくれていた。またまた一歩前進だ。


「そうだ、お姉さんは洋楽は聞く?」

思わずお姉さんと言ってしまった。そっちの方が今のところは警戒心はないだろう。

「洋楽か~、ちなみにこれは何ていう人」


みんなで揃った。

「ドアーズ」


「はじめて聞くかも、でもいい曲ね」

そういって、何曲か聞いていた。

「では、ごゆっくり」

そして部屋から出ていった。


「姉ちゃんと知り合いだったんだ」

「知り合いってほどでもないよ。何回か飲み会の席で一緒になったことあっただけかな」

「で、たまたまこないだ電車で偶然あって話したぐらいかな」

「それにしても、まさかかずやの姉ちゃんだなんてびっくり」

「ふぅーん」

あまり、これで話は盛り上がらなかった。


というより、そうそうに話は切り上げ、また音楽の話へと持っていった。


頭の中では、どのようにして夜ごはんをみんなで食べるまで、ここで時間を過ごせるかに集中していた。お父さんとお母さんに近づくチャンスだ。そのためにもここで盛り上がらなければいけない。一つ言えることは、かずやが女の子を連れてきたことで、家族が盛り上がっているということ。これは大チャンスだ。


「ちょっとトイレ借りていいかな」

「いいですよ、階段降りてすぐのところです」

知っているよ。トイレに行ってちょっと考えていた。

まなみは何をしているんだろう。


そして視覚に入った。

これは、から揚げをあげているんだろうか。

隣にはお母さんがいる。これは、もうビンゴだ。

あと一押ししてみるか。


「おっ、なんかすごいいいにおい」

ちょっと大きめな声で言ってみた。ちょうどまなみが出てきた。

「良いにおいでしょ、食べてく?」

「えっつ、いいの」

「いいけど、お願いが一つあるの、もしさ、あの娘もこの後用事なかったら、ごはん食べてってて聞いてくれないかな?」

「もちろんいいよ」


そして階段をあがって部屋を開けた、二人が楽しそうに語っていた。

「あのさ、ちょうどお姉さんに夜ごはんのお誘いあったんだけど、美里ちゃんもどうかって聞かれたんだけど」

「えっ、いいの、もちろん。あっ、でも親に連絡だけ入れとくね」


何度も夢見た食卓だった。夢見たというのはちょっと違うか。

実際何度も食卓はまなみの目をとおして見てきた。

こうやってリアルに見ると何とも感慨深いものがある。

こんなやりとりをしていたのか、こんな香りがしていたのか、見るもの聞くものをすべてを焼き付けていた。


だけど、その日のことはあまり覚えていない。

なんだか夢見心地で、ずっとふわふわと雲の上で寝ているような、そんな感じで夕食を終えていた。何を話していただろう。


考え事をしながら、会話に参加していた。我に帰った時にはすでに家に戻っていた。

まなみ、準備は整った。もうちょっと待っててね。

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