第6話 彼女の弟は俺の弟

なるほど、ここがまなみの弟のかずやの高校か。

ここ数日で、いろいろな情報を得ていた。

かずやのこと、そして好きな子の中田美里のこと。

美里には彼氏はいない。

特に好きな人も今のところいなさそうだ。

音楽が好き、とくに洋楽。

英語の時間は結構まじめに授業を受けていること、それ以外は絵を描いていること。


かずやも、それくらいの情報はもう知っているかもしれない。


帰り道によく高校生が寄り道するカフェがある。

気さくなマスターとママさんでやっているけど、最近マスターがケガしたらしい。バイト募集の紙を貼っていた。

かずやが通う高校はバイトは禁止だ。

俺はそこで働くことにした。


俺は人付き合いはとても苦手だった。

人と話すこともあまりできない。

だけど、演じることは好きだと最近知った。

優しいお兄さんを演じる。これで決まりだ。


「ほんとは女の子のバイト雇いたかったんだけどね」

といいつつも、まあマスターが手出しそうだからいいか、ということで決まった。


「いらっしゃい」

最初はかずやだった。

何度も通っているらしくママさんとも親しく話していた。


俺はお兄ちゃんを演じた。

「ちゃんと恋してる」

ちょっとはにかんでいた

「なんでも相談しろよ」

とりあえず掴みはOKというところだろう。


しかも俺の名前はたつや、そして彼女の弟の名前はかずや。

あのアニメの兄弟のようだ。俺にとっては彼女は南ちゃんと言ったところか。


そして、かずやが帰っていったあと、しばらくたって美里が友達とやってきた。

このグループもどうやらここの常連らしい。

「はじめまして、よろしくね」

ちょっと軽めな人って雰囲気で言った。

どうやらいつも、マスターやママさんにいろいろ相談にのってもらっているらしい。

「親も君らのことかわいいから言ってんだと思うよ」

「俺もさ、高校の時はさ、親に反抗ばっかりしてたよ」

「でも、ふと、ある時気付いたの、あっ、親ってありがたいなって」

といったものの俺は反抗期はなかった。そんなのすら面倒くさいと思っていたからだ。

いろいろ話をしていくうちに音楽の話になった。

きたーっと心の中で言っていた。

「最近は洋楽聞いてるかな、イーグルスとかディープパープルとか、フーとかレッドツェッペリンとか、あとドアーズも好きかな」

「そうそう、ドアーズ、すごーい、ドアーズ好きいたー、お兄さんいい人なんだね」

ドアーズで興奮していた。

「また遊びに来てね」

「ありがとうございます」

そう言って帰っていった。


今日は大収穫だ。まずは二人の心を掴めただろう。

かずやを洋楽好きにさせるしかないかな。


幸いにも、本当に自分は洋楽が好きだった。だからCDやレコードもいろいろと買っていた。

かずやに貸すCDを選ぶか、そうだな、ドアーズでも貸すかな。


あっ、いいことを思いついた。

ドアーズの本も確かあったっけ。

とりあえず、かずやに貸して、その後、その話を美里に言おう。

それで二人は接近できるはずだ。


次の日もまたかずやが現れた。かずやは最近洋楽を聞いているんだとか。

「おっ、そっか、それなら貸そうか」

そう言って、ドアーズのCDと本を取り出した。

ちょうど、同じ高校生でドアーズの話で盛り上がったことも伝えておいた。

かずやは食いついてきた。

おそらく彼女が来ているのだろうということは察しがついたのだろう。


「なあ、ひょっとして誰かの影響とか」

「まあ、まあ、いいじゃないですか」

もう一息ってところだな。

また、かずやは帰っていった。


今日は美里現れるのかな。

昨日よりだいぶん遅くなって入ってきた。

今日は一人だった。

最初からドアーズの話だった。

CDとか本を持っている話をすると、貸してほしいということだった。

「ちょうど、貸してるんだよね。もう一人ドアーズ好きの男の子がいて」

「あっ、でも美里ちゃんと同じ高校っぽいよ、同じクラスだったりしてね」

「なんて名前ですか」

「えっと、あれ名前聞いてなかったかも、ママさん何て名前だっけ」

「あっ、かずやくんでしょ」

「えっと、それって苗字は?」

「上の名前までわかんないな~」

「まあ、とりあえず、読み終わったら美里ちゃんに貸すようにするから」


とにかく二人は意識しあっただろう。

もうひと仕込み。これで次の段階に進もう。


バイトはとりあえず明日からは休みだし、また来週スタートさせるか。

翌週になって、バイトに行った。

かずやが来た。

「ひさしぶりっすね、たつやさん、もうやめちゃったかと思いましたよ」

「おいおい、ひどいこというね、そういえばどうだった」

「もう最高っすよ」

「あっ、そうだ、それね、CD聞いて、本読み終わったら、次貸してほしいって子いるから、その子に貸してほしいんだ」

「なあ、ひょっとしてだけど、ズバリ聞いていい」

「多分、その子じゃない、かずやの好きな子って」


飲んでいた飲み物を詰まらせていた

「ゴホッ、ゴホッ」

「何いきなりいうんですか」

「まあ、良いけど、とりあえずさ、CDと本その子に貸してあげてね」

「ナイスアシストだろ」

ありがとうとは言ってくれなかった。きっと感謝しているはずだ。


今日は美里は現れなかった。でも、これで朗報を待つとしよう。

付き合うかどうかはどちらでもいい、かずやに恩を売ることそれだけできれば俺はそれでいいのだ。


次の日現れたのは二人だった。

「こんにちは」

「あらら、今日は二人」

「ちょうど、学校でドアーズ貸そうと思ったら、どうせならここでドアーズの話しようってことになって」

何やら言い訳がましく言ってるけど、とにかく良かった。


「誰かレコードプレーヤー持ってない?」

「あっ、持ってますよ」

そんなことは知っている。

「本当に、よかった。あのね、ドアーズのレコード盤持ってるんだけど、プレイヤー持ってなくてね。めっちゃ聞きたいのにお預け状態くらってんの」

「ええー私も聞きたい」

「おっ、じゃあさ、今度かずやの家行っていい?」

「もちろんいいっすよ、二人とも来ますか」

「賛成!!」

「よし決まり、じゃあ今週の土曜でもいい」

「いいですよ」


よし、土曜は確かまなみも何も予定は入ってなかったはず、家にいるんじゃないかな。

「じゃあ、土曜よろしくね」


今日はまなみの視覚をかりながら一人で祝杯をあげた。

まだ慣れていないから、少しお酒をこぼしなから。

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