第5話 朝の視覚、夜の視覚

「おはよう」

今日の目覚めは快適だった。

まなみの見る風景で、朝を迎えることができるからだ。


何度かチャレンジしてみるが真っ暗のまま。

こんなことでは俺はもう動揺しない。

それはまだ寝ているからだと知っているからだ。

そして4度目の挑戦で、窓のカーテンを開けた時のようにパッと目の前に朝が現れた。


布団がどかされて、すくっと起き上がる様子が感じられた。

目をこすりながら階段を降りていく。

今日はパンと卵焼き。

そうだ、俺も朝ご飯を食べよう。


世界は急に明るくなる。今までのどんよりとした毎日の生活が嘘のようだ。

俺は生きる活力を得た。

楽しいんだ。

こんなにまで楽しい気分になるとは思っていなかった。

ということは、彼女と恋人になったら、どれだけ幸せになれるんだろうか。


今日は家でゆっくりしよう。


さてと、今後どうしていくかを考えていかないと。

彼女が何か悩んでいることがないか。それを知ることが必要だな。

あとは家族と仲良くなるのも一つか。

お父さんとお母さんと弟。誰かに近づいてみるのもいいかも。

あと、俺ができることはないだろうか。

うーん、ひとまず、最初はどうするかだな。

よし、まずは弟から取り込んでいこうか。


弟の姿を思い出した。

そして彼の視覚に入り込む。

黒板に何やら書いてある。

アウグスティヌス。何だっけ。ローマ帝国か。これは世界史の時間だ。

そうか、弟は高校生か、甘くすっぱい高校生活、なんだか懐かしい。

といっても甘い思い出もないから、うらやましくもないんだけど。


机に視線が移る。そしてノートに目が移る。

なんだか写真をノートに挟んでるな。ふむふむ、アイドルね。

あれ、今度はスマホか~。こっそり先生にバレないように見てるのかな。

なんだ、またさっきのアイドルの写真か。あれ、さっきのアイドルと似てるけど。いや違うな身近でとったような写真だな。もしかしたら近くにいるかもな。

同じ高校の制服っぽいな。このクラスにいるのかな。

どこだ、どこだ。右か、左か。


あっ、いた。スマホの子だ。

あの子が鍵になりそうだな。


名前だけでもわからないかな。とりあえず顔を覚えておこう。

忘れないぞ。


「よし、弟に取り込む作戦第一弾だ」

彼女を調べるか、彼女を思い出して、視覚に行くぞ。


帰り道なのかな。スマホに音楽入れてるんだ。

おっ、洋楽か、英語で書いてるな。

あっ、そのタイトルは60年代、そっか、ずいぶん昔の聞いているなー。

「ドアーズ」俺も好きな歌手だ。名札が見えるな。

もうちょっとで見えるんだけどな、中田。

そっか中田、下の名前はわからないけど、とりあえず名前はゲットだ。


一番いいのは、弟の先輩的な立場で近づいて、あの娘とくっつけてあげることだな。それが一番弟の信頼を勝ち取ることができるかもしれない。


今日はゆっくりしようと思っていたのに、随分といろいろ歩き回った気分だ。

ずっと家の中にいたのに、かなり歩き回っている感覚が残る。


〆はやっぱりまなみだな。


スマホをスライドさせている。写真でも見ているのだろうか。ほのかな灯りで画面が照らされている。どうやら小説を読んでいるようだ。


「寝ながら見ると目が悪くなるぞ」

と言ったところで、相手には通じない。

だけど、瞼が閉じる回数が多くなってきた。

おそらくうつらうつらしているのだろう。


寝る前にスマホ見ると目が疲れちゃうんだよね。

そうしているうちに目の前が暗くなった。

「おやすみ」

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