第12話 キス
「へーこんなん聞くんや……」
突然目の前に現れた彼は、イヤホンを耳にいれフッと笑った
「…」
「俺もすき」
久しぶりにみる彼がいる景色に、うしろの背景がぼやける
彼は何も言わずに隣に座ると「ん」と言って袋を差しだした
「…なに?」
あごで袋のほうを差す
「…」
「お前さ、ちゃんとみた?」
「…なにを…」
「発売日ちゃんと確認してから探せよ、発売日まえに探したってないに決まってるやろ」
袋をうけとり中をのぞく
「あ!焦がしキャラメル!」
あの日、コンビニを三軒回っても見つけられず諦めたコンビニ限定のハーゲンダッツのアイスクリームがはいっていた
「なんで…」
「…おれエスパーやから」
「…へぇ…」
「…おい、それだけかよ、突っ込めよ」
アイスクリームをみた
「お前は宇宙人との通信専門やもんな」
「…は?」
彼の顔をみる、と
またあの…優しい目と、視線がぶつかる
思わず目をそらした
「…しかしこの寒いのにアイスクリームって、女って好きやなぁーアイス」
「ハーゲンダッツは別だもん、冬食べるからおいしいの」
「そんなもん?」
いつも通りの、前の…彼だ
なんだかふわふわした気持ちになって…
頬が勝手にゆるんでいるのがわかった
これは…久しぶりの会話に恥ずかしくなったから…なのか
いや…ちがう
これは…
これは…
「…どうしよう!食べたい!食べちゃおっかな、食べていい?」
「どうぞー」
「じゃあ遠慮なく…おいしそ!いただきます!!!」
包装紙を丁寧に破ってから、かぶりつく
「んーおいしい!!ほんとに焦がしてるキャラメル!!ほんものーー」
「ほんものってお前…アイスやで」
といって彼はわたしの顔をみて笑った
「ついてるし」
「え?」
指が延びてきてわたしの唇の横に彼の指がふれる
「ガキやな…」
そういってその指を自分の口許にもっていき指をなめた
「…」
指があたった部分が浮き上がってるみたいに痺れる
その部分から広がってくるドキンドキンという音が頭の奥まで響く…
「うん、久しぶりに食うとうまいな」
「…」
「…なに?」
「…いや…」
思わず目を反らす
横顔をじっとみつめられている気配に頬の左側が熱をもつ
「…もう少しちょーだい」
「え?」
「…おとすなよ」
そういって彼は私の手元に顔を近づけた
薄茶色の前髪と、彼の顔が目の前にせまる
その彼が一瞬静止動きを止めた
「やっぱこっちにするわ」
上目遣いの彼の目がこちらへむく
気づいたら彼のまつげが目の前にあって
唇に何かあたる感触がした
自然と目をつぶっていて
唇がはなれた感触に目を開ける…と、こっちをみる彼の目と目があった
「…」
「ほんまやな」
「…え」
「キャラメルの味」
そういって彼は何もなかったかのように体勢をもどして前をむいた
「…」
「…って」
「あ?」
「キス魔なの?」
「はぁ?キス魔って…ふる」
「…だって…」
「キス魔って…誰彼構わず、どこでもキスするヤツやろ、…やったらどうする?」
「…やったらって…」
彼はこっちをしばらく見つめた後、手を頭の後ろで組んで反対方向を向いた
「ちゃうにきまってるやろ」
「…」
「誰彼構わずちゃうわ」
「お前やからやん」
彼がこちらをみる
「お前やからやん、当たり前やろ」
「…なん」
「そこまでいわんとわからんの?お前ほんまのアホ?」
「な、なんなの…会ったときからアホやのバカだの…」
「……」
彼が私の顔をまっすぐみる
「好きやから」
「…」
「お前のこと好きやから」
「…」
「だからキスしたい」
一瞬息の吸いかたを…忘れた
風が吹いて髪を揺らす
彼の前髪も揺れる
彼の顔をみると、真剣な目と視線が絡んだ
「…だからあのときも」
そう言って視線をすこし反らして黙り込んだ彼
「…だから、わかった?」
「…え?」
「え、ってお前、勘弁してよ」
「…だって」
「お前が気づかへんから悪いねん」
「…」
「お前はおれのことキライなん?」
「え……」
「キライなん?」
「え、いや…」
「じゃあ好きってことやな」
「え」
「そうやろ」
「…」
「沈黙は肯定」
そういって彼は私のほうに身体をむけた
「アイス…」
「…え」
「抱きしめられへんから貸して」
そういって私の手からアイスをうばうと、彼の姿が目の中で大きくなっていった
気づいたら彼の肩が目の前にあって、鼻のあたまに彼のコートがあたる
なんの香り…これ…
「…アイス溶けちゃう…」
「…また買ってきたるわ」
そういって彼の顔が目の前に迫って
四度目…のキスをした
今度は…
キャラメルじゃなくて、彼の唇の味がした
a love story saver -運命のひと ひろひろ・みひろ @akarin0129
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