第7話 ステップ

それから

毎週火曜日と木曜、彼はここに現れるようになった

2時限目3時限目の間、彼はあらわれる


「おーす」

「…おはよ」

「きょうも暑いな」

「暑いね」

単なるあいさつ


「それなに?」

「ん?宗教学の…テキスト」

「宗教学?そんなん必須なん?」

「いや、単に興味あって…」

大學の講義の話


「そういえばあの駅前にラーメン屋できたやろ」

「あ、うん、できたね」

「うまいんかな」

「さあ、魚介系って書いてあったよ」


特に何も話さない日もある

私はテキストをみてたり、何か食べてたり

彼は隣でコーヒーをのんでたり

本を読んでたり、何か食べてたり

携帯電話で何かをしてたり

…ただ隣にいる


そんな日が続いていた

ある日の火曜日


「あれ?なにしてんの?」

「……あ、コンニチワ…」

学科の二個上の先輩、井上さんが立っていた

ジャージ姿にキャップ、スニーカーという格好

「ひとり?」

「あ…はい」

「おひる?」

「あ、そうなんです、ここ…」

「こんなとこで?」

「あ、はい…」

「へぇ、こんなとこあったんだね、知らなかった」

周りを見渡しながらこちらに歩いてくる

「…井上さんは…トレーニングですか?」

「あ、うん、なんかグランド走んのあきちゃってさ、学内をね…ぐるぐると…」

「へぇ…」


「あーちょっと休憩、すわっていい?」

「…あ、はい、どうぞ」

井上さんが私の隣に腰を下ろす

「ありがと…へぇ、おれほぼ四年ここいるけど、こんなとこ知らなかった、隠れ家ってかんじ、よくくるの?」

「あ、はい、けっこう…」

「へぇ…そっか、、、なんかあれだね、あんまり誰かとつるんでるとこ見ないけど…1人が好きなの?」

「あ、いや、そういうわけじゃ」

私の言葉に井上さんが眉毛をさげて、こちらをみた

「もしかして……なんか人間関係でなやんでるとか…」

「え?あ、いや!ぜんぜんそんなんじゃ…」

本気で心配そうな顔をして私の顔を覗き込む

「ほんと?」

「あ、はい、ほんとに」

「…そう。ならいいけど…なんかあったら…言ってね、一応先輩だしさ」

「…はい、ありがとうございます…」


純粋な人なんだな…こういう人の優しさって…ほんとに暖かい

きっと…いつもみんなに囲まれて、愛されてる人なんだろうな…

「あ、そういえばさ、公共福祉学の神尾教授さ…」


その時カサッと草むらを踏みしめる音がした

音がした方向をみると…

「あ」

「え?」

三人の目が合う

「…なにしてんの?」

彼が口を開いた

「…え、なにって…」

私と彼の顔を交互にみて井上さんが口を開く

「あ、友達?見ない顔だね、うちの学部?」

彼は井上さんをじっとみつめて、何も言わない


「……」

「…え、あ、いやあの彼は社会学部で…」

「社会学部?なんでここに?…あ、もしかしてアメフト部?練習かぁーってアメフト部にしては細いね…」

という井上さんの言葉を無視して彼は私の方に近寄ってきていきなり手を取った

「…え、な…」

ぐいっと引っ張られる手

「いくで」

「は?あ、ちょ…」

上半身がひっぱられ、反射的に右手で鞄をにぎる

「…え?」

後ろを振り向くと井上さんがぼかんとした顔をしてこちらををみていた

「あ、すいません!また…」





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