第5話 想い出

「おいしい!」

思わず叫んだ私の顔をみて彼が得意気な顔をして顎を付き出した

「やろ?おっちゃんのラーメンは日本一やねん!」

「日本一だなんて大げさだなーやめてよ湘ちゃん」

「いや、ほんまに!おれ絶対おっちゃんの塩ラーメンはマジでうまいとおもうもん!…ていうかさーおっちゃんその湘ちゃんってのやめて、俺もう大学生やで」

「なんで?いいじゃないのー湘ちゃんは湘ちゃん、かわんないよ」

「もー」

なんていいながら彼が笑う



キャンパスから自転車で10分ほど

私の家からはキャンパスをはさんだ反対方面で、このあたりは来たことがなかった

二階建てのアパート

その一階部分が店舗になっていて、店の前には今ではあまり見ない、チャーハンやラーメンの食品サンプルがケースのなかに並んでいる

自転車をおりるとゴマ油の匂いと、ソースみたいな匂いがして、お腹がきゅ、っと鳴った

彼について暖簾をくぐると、カウンターの中から、おじさんのいらっしゃい!と元気な声が迎えてくれた



「よくくるの?」

「うん、もう昔っから、俺の第二の台所やねん、あ、俺んちね、この辺なの、そんで、ちっちゃい時から親とよく来てて…親の転勤で地方行ってた時期募あんねんけど、大学入学んときにこっち戻ってきて、それからはほぼ毎週」

「そうそう、昔からよく来てくれたよね、家の味、とかいってしょっちゅう来てくれて、お母さんもお父さんもよく来てくれるよ」

「うん俺の家族の御用達」

「へぇー…いいね、そういうの」

「そう?」

といいながらラーメンをすする彼

「ていうか家このへんなんだ?」

「うん、すぐそこ、近いで」

「ふーん、じゃあキャンパスも近くていいね」

「まぁでもおれ、社会学部やからここのキャンパスちゃうし」

「え?そうなの?じゃあなんでさっき…」

「ああ、自転車だけあそこに停めんねん、んで駅まで行って電車、駅からこのキャンパス近いし…、それに図書館もこっちのが充実してるから主にこっち使ってる」

「ああ、なるほど…」

と言うと、彼が私の方を見てにやっと笑い

「なに?やっと俺に興味もってくれた?」

「…え?は?そんなんじゃな…」

と彼の方を向くと、目の前にあったあの笑顔に、思わず箸が止まった

優しい顔で微笑む彼

「…」

「はよ食べんとのびんで」

「…あ、うん…」 



これが湘と食べた最初のラーメン


あの時思わず黙ってしまったのはその優しい瞳と優しい顔に…驚いたから…


今でも…

無性にあの味が恋しくなる時がある


そして同時にあの優しい笑顔を思い出す…



 

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