第3話 偶然
彼女を目にしたのは偶然だった
いつも定期的に利用している大学のキャンパスの図書館にやってきた火曜日
いつもの自転車置場、いつも停める定位置
一番出口に近い、チェーンをまきつけられる柱の隣、が俺の定位置
でも、その日に限って、グランドでどこかの部活動が他校と試合をしていたのか、自転車と原付が普段の倍以上停まっていて、いつもの定位置に知らない自転車が既にとまっていた
ちぇ、っと独り言をいい自転車をおして奥まで進む
なかなか空いているスペースはなくて、一番奥の角、木の影になっている奥まで進んでやっとスペースをみつけ、自転車をとめた
チェーンをかけるためにしゃがんで、立ち上がろうと前を向いたとき、フェンスの向こう側にあるベンチに気がついた
…こんなとこに?
そして同時にそこに座る人間が目に入った
目を細めて見つめると、座っているのは女性だとわかった
…なにをするでもなくじっと宙をみつめている
…なにみてんだろ?
彼女が見ている方向を振り返って見てみたけど、木と、自転車置場の屋根がみえるだけ
…しばらく見つめてみたけど彼女はいっこうに動く気配がない
しかも無表情
ちょっとこわ…
ボーーっという言葉が顔に書いてあるみたい…だった
なんだ?宇宙と通信かなんかしてたりして…?
自分のちょっとおかしな思い付きにへっ、と笑った
おもしれ…
と思いながらもその時はなにも思わず、踵を返した
…これが彼女をみた最初
それから…
自転車を置きに来る度になんとなくあのベンチに目をやるようになった
俺も毎日来ているわけじゃなかったから、彼女はいる日もあったし、いない日もあったけれど、午後からの講義の日、お昼頃に行くと大抵彼女はそこにいた
ある日…彼女が何かを食べていた、ので見つめてみると
手に持っていたのはおにぎり、しかも特大サイズ
でかっ!白米大好きの俺はおにぎりに惹き付けられてしまった
彼女とその大きなおにぎりのコントラストがなんだかシュールで、更におかしくなった
彼女は食べながら宙をみつめている
ほんとに通信してんのかもな…
そうなると、彼女をみるのがなんとなく日課になって
彼女がいない日はがっかりしている自分にきづいた
一度すこしだけ近くによって見つめてみたけど、美人…というわけではない
すごくグラマラスなわけでもない
クラスに1人はいた…地味なんだけどなんとなくそこで笑ってる、ような俺は接点がないタイプ
おとなしそうで、感情はあまりださなさそうな…
そんなある日…
風の強い日だった
その日も彼女はそこにいて、みると電話…をしているみたいだつた
携帯電話を耳に手を当て、片方の手を髪に当てて、話をしている
時おり宙をみて…いつものように…
そのときふいに彼女が笑った
風がさっとふいて髪の毛が顔にかかる
髪の毛を反対の手で押さえながら…
目がほそくなって、口許があがる
頬がすこし赤く染まって
長い髪が顔の前で揺れて、その髪を左手で押さえ耳にかける
太陽の光が顔に当たって反射した
その仕草ひとつひとつがスローモーションみたいにみえた
どくん、心臓が音を立てて動いた…気がした
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