その十五:湯


 キシキシ言わなくなった髪に満足した僕は『塩サウナ』と銘打たれた、妙に新しい扉を開きます。


 中は至って普通でした。大理石もどきの四角い椅子が左右に幾つか並んでいて、最奥には水瓶が鎮座して、入り口の脇に『塩』が入った壺が置かれているタイプです。知らない方がいらっしゃるといけないので一応説明すると、塩サウナとは所謂スチームサウナのことで、それにプラスして備え付けの『塩』を自らの体に擦り込んで発汗を促すというものです。要はスーパー銭湯でよく見かけるヤツです。


 どうやら、此方ど田舎温泉『洞窟風呂』にも『塩サウナ業者』が侵食してきている様ですね。世知辛い世の中です。


 まあ、それはいいとして。扉を開けて先ず目に飛び込んできたのは、汗びたになりながら最奥の席に姿勢を正して座る友人の姿でした。他には誰も居ません。僕は一旦扉を閉めました。


 皆さん大変申し訳ないのですが、残念ながら『オーシャンビュー』に続いて『塩サウナ』も諦めなければならない様です。


 これまで幾つかの男湯ルールを紹介しましたが、どれも『友人同士で隣に並んでいる方々のお邪魔はするな』これが基本でした。しかし『塩サウナ』は別です。『塩サウナの中で一人で姿勢を正して座っている方がいらっしゃったら近づくな』これは鉄則です。

 勿論、二人かそれ以上で密着している様なら基本ルールが適応されますが、幸いな事に僕はまだそういった現場には遭遇した事はありません。


 さて、ここでひとつ疑問があるのです。そうです。お察しの通りです。

 先ず、女湯に『塩サウナ』は存在するのでしょうか? 流石にアングル先生の時代には、そういったものは存在していないので『トルコ風呂』には描かれていません。そうなると僕にはお手上げです。


 こうします。女湯に『塩サウナ』が存在すると仮定します。となるとやはり、女湯の『塩サウナ』では友人同士で密着して汗を流すのでしょうか? 


 いや、もう逆にここまでくると密着していない方がおかしいですね。

 あのふたりは『桃色♡ぼでぃ♡そ〜ぷ』をたっぷり使って一緒に体を洗い、『透明なのにぬるぬるしている温泉』に浸かってお肌がすべすべになっていることをお互いに確かめ合っていた訳ですから。


 当然『塩サウナ』でも────


『……なんか……暑いね……もぅ……汗びちょだね……』

「……ぅん……そぅだね……」

『……なんか……ぁんたの肌……ひんゃりしてる……こんなに暑くて……汗びちょなのに……』

「……ぁ……ちょっと……ぁんまり……ぅごぃちゃだめ……」

『……だって……冷たくて……気持ちぃぃんだもん……暑くて……汗びちょなのに……』

「……だめ……だっ……てば……じっとしてて……」

『……ねぇ……ぁんた……また眼鏡曇ってる……』

「……ぁなただって……曇ってるじゃなぃ……」

『……えっ……ちょっと……レンズ……舐めちゃ……だめ……』

「…………んっ……しょっぱぃ……」


 僕はどちらかと言えば『』の眼鏡女子が気に入ってます。『ミルクティアッシュブラウン』で染めた明るめの髪のゆるふわボブに、ピンクの縁の金属製の眼鏡を愛用している設定です。

 「」の眼鏡女子は、長めの髪で内巻き外巻きのミックスに、縁がちょっぴりとんがってる茶色の眼鏡です。

 あくまでもどちらかと言えばなので、本当は両方お気に入りなのですが、残念ながらこのふたりの出番はこれで終わりになります。ですが、この設定を踏まえて、もう一度ふたりの登場シーンを読み返してみると、より楽しんで頂けると思います。


 尚、『湯〜とぴあ♡ふたりは眼鏡女子』で一作品いけそうなので、いずれスピンオフを書こうと思います。『温泉ガール』を自称するふたりの眼鏡女子が全国津々浦々、有名温泉スポットから秘境の湯、更には大人気のスーパー銭湯まで巡るフェイクドキュメンタリーの珍道中を想定しています。読んでね。


 さて、振るいの目が粗くなってきた事に皆さんお気づきかもしれませんね。


                  (続く)

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