その十一:湯


 皆さんご存知だと思いますが、公衆浴場では最初に薄汚れた体を洗ってから湯船に浸かる事がマナーです。僕達もその例に倣って、先ずは赤茶色の湯船の向かいに並んだ『洗い場』へと向かいます。


 洗い場には一応、それぞれの席にリンスインシャンプーとボディーソープが備え付けられていました。もちろん、手書きのタイプです。


 洗い場に着くと、僕と友人は席をひとつ分空けて座りました。他人同士であれば関係無いのですが、見知った顔同士ではそういうものなのです。決して隣には座りません。これは『男湯のルール』です。

 もし、友人同士で隣り合って座っている方々を見かけたら、それは友人ではなくカップルの可能性があります。僕は普段からそういう方々の邪魔はしない様に心掛けています。恐らくこのルールについては男性読者さんなら全員、ご理解頂ける筈です。


 ただ、僕が敬愛する巨匠ドミニク・アングル先生の『トルコ風呂』に描かれた女性達は、妙にくっ付いているのです(特に画面右側に描かれたふたりの女性はかなりのくっ付き方です。花柄の刺繍が施されたトルコ帽を被った女性が、真珠のネックレスをお召しになられた女性のおっぱいを、完全に揉んでいます。画面向かって左のおっぱいを、完全に揉んでいます)

 ですが、あの絵に描かれた女性達が全員恋人同士とは到底思えません。どうやら女湯には女湯のルールがあると僕は睨んでいます。

 確かに、アングル先生の生きた時代は二百年前です。しかしながら、お風呂のルールなんて、古今東西、変わらない筈です。ということは、現代の日本でもそのルールは息づいている事でしょう。


 だとすれば、やはり現代の日本人女性達も、お風呂の洗い場ではなるべくくっ付いて座るのでしょうか? あの絵の様にご友人同士なるべく肌を密着させて座るのでしょうか? 肌と肌をぴったり密着させながら備え付けの『ピンクのボディーソープ』をいっぱい出して体を洗っているのでしょうか? 


 ご友人同士で────


『……このボディソープ……ぁんまり……泡立たなぃね……』

「……ぅん……そぅだね……」

『……こんなに……ぃっぱぃ使ったら……怒られちゃうかなぁ……』

「……ぁ……ちょっと……そんなに……だしちゃ……だめ……」

『……だって……ほらぁ……全然……泡立たなぃんだもん……』

「……んっ……だめ……だってば……」


 体を洗いっこしてから湯船に浸かるのでしょうか? 髪は? 髪はどうやって洗うのでしょうか?


 女湯の中で繰り広げられている光景だけは一生拝む事ができない僕達に、ご教授下さい。ここまで読者さんを相当振るいに掛けているので、まだ読んで頂いている女性読者さんは、とてもお優しく大変お美しい方か、誠に勝手ながら、かなりの猛者だと踏んでおります。

 応援ボタンを押すとコメントが書けるみたいなので是非よろしくお願いします。


 

 では少し早いのですが、話の軸がズレそうなので続きは次回に回します。次も読んでね。


                  (続く)

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