その六


 僕達はオレンジのバスタオルを小脇に抱えて、古民家の縁側をとぼとぼと歩き『ここから降りて下さい』と書かれた案内に従って、裏庭の様な場所へ出ました。もちろん、まだ服は着ています。


 すると目の前に、切り立った岩壁のふもとにぽっかりと口を開けた『洞窟風呂への入り口』と思われる『穴』がお目見えしたのです。それも二つ。それぞれの『穴』の上には「男」「女」と書かれていました。暖簾のれんではありません。白いプレートに手書きです。


「写真と全然違うじゃないか」


 友人の口振りは正に、繁華街でキャッチのお兄さんにイチャモンを付ける時の『ソレ』でした。

 遂に僕達は『洞窟風呂』の入り口に辿り着いた訳ですが、もし、この話を読んでいる女性読者さんがいらっしゃるのであれば、分かり辛い表現があったかもしれないので一応、補足を入れておきます。


 その昔「セクシー女優のお顔がパッケージの写真と違う」という話をよく耳にする事がありました。所謂『パッケージ詐欺』というものです。Photoshopなどを使ってジャケットの写真を加工するわけです。

 ぶっ飛んだ内容であれば固定層がいるので問題無いのですが、やはりセクシー界隈では内容以前に、お顔の良し悪しで売り上げの差が如実に表れるのです。そのおかげで我が国の写真加工技術は目覚ましく発達しました。世知辛い世の中です。


 ただ、昨今のセクシー界隈では『パッケージ詐欺』なんて、あまり聞かなくなりました。それは恐らく『本人に加工を施す』という手法が主流になってきたからではないかと僕は睨んでいます。身体にメスを入れる事に抵抗が無くなってきたのですね。


 しかし『夜の街』では、この令和の時代になった今でも、加工とかそんなもの比にならないぐらいの悪業が、当然のように行われているのです。


 例えば、キャッチのお兄さんに見せて頂いた写真では眼鏡を掛けていたはずのお姉さんが、裸眼で現れる事なんてザラです。その日は眼鏡の調子が悪くて、コンタクトを嵌めているというのならば話は分かります。でも、連中に「おい、あんた眼鏡はどうしたんだ?」と聞いても、小首を傾げるだけなのです。そうです。連中は、眼鏡なんて最初から掛けていないのです。これはもう『眼鏡女子詐欺』です。そうなると結局、眼鏡無しで事は運びます。


 もちろん、のこのこやってきた方の顔が違うという事もあります。実際このケースが一番多いと思います。このケースの場合、写真の顔はいじくり回されているので、本人かどうかすら分からないことがほとんどです。『パッケージ詐欺』どころの話ではありません。

 多少、面影が残っている事もあるのですが、その場合は体型が違います。おっぱいが小さくなってるとか、そういう次元の話ではなのいです。

 メスを入れた訳では無いのに、全体的に大きくなります。大きくなったうえに、眼鏡を掛けて来ないなんて事もザラです。ダブルです。というか『眼鏡詐欺』はこのケースが多いです。

 恐らく良心が多少残っているので、写真には面影を残してあるけど、体型がどうにもならないという場合に『バストアップの写真+若干の加工+眼鏡』で誤魔化そうとするのです。そうすることによって僕達は、ついつい眼鏡に目がいってしまうのです。なら「眼鏡だけは掛けて来い」と言っても、奴らは小首を傾げるばかりなのです。

 尚、顔も体型も違うケースに至っては、もう、何のために写真を見せられたのかよく分かりません。


 また「てめぇの娘の写真なんじゃねぇのかアレは?」なんて事もザラです。いや、血が繋がっているのであればまだ話は分かります。「娘さんお綺麗ですね」なんて、話も弾みます。なんなら、本当に娘さんの写真であれば、それはそれで親子丼みたい───




 ここまで読んで頂けた女性読者さんがいらっしゃるか分かりませんが、エッセイを書く場合、補足は大事だと聞いています。次回はいよいよ『洞窟風呂』の全貌が明らかになる……はずです。


 読んでね。


 あと、今気がついたのですが、女性用の眼鏡を常に持ち歩くというのも、有りかもしれません。今度、縁の端っこがちょっぴりとんがってる赤い眼鏡を買って来ようと思います。


                (続く)




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