その五
Tバックでも干してあったのでしょうか? 友人は物干し竿に掛けられた洗濯物をまじまじと見つめています。まるで『泥棒』です。
近づいて来る僕の気配を察したのでしょう。友人はさっと振り返ると「おい、コレはなんだ?」などと、先程と同じ様な事を言っています。何かを取り繕おうとしているのはみえみえでした。
共犯と勘違いされると困るので、僕は友人を置いて先に小汚くて立派な古民家の様な建物に入りました。すると、広々とした玄関口にカウンターが設けられていて、中では赤いエプロンを掛けたおばちゃん数人が、忙しそうに受付業務を行なっていました。それもそのはず、やはり『洞窟風呂』は妙に繁盛していたのです。お客さんでごった返していました。
僕は受け付けの列に並び、辺りの様子を伺います。他のお客さん達と同じ様に。そう、何かがおかしいのです。あのホームページの『写真』が醸し出す煌びやかな、まるで高級リゾートの様な雰囲気は、この古民家からは微塵も感じられないのです。間違って『郷土資料館』にでも入ってしまったのかな?と、あの場にいたほぼ全てのお客さんが、狐につままれた様な目をしていました。
いつのまにか隣に立っていた友人も訝しげな表情を浮かべ、辺りを見回しています。
「洗濯物の謎は解けたのかい?」僕の問いに、友人は黙って首を横にふりました。Tバックが干してあったかどうかは、友人にしか分からないのですが、あったとしても既に失くなっているとは思いますが、受け付け係にはおばちゃんしか居ません。洗濯物の謎は深まるばかりです。
特に会話もないまま、僕達は受け付けを済ませ、レンタルのバスタオルとフェイスタオルを片手にいよいよ『洞窟風呂』へと向かいます。
因みに、僕達は着替えなんて持ち合わせていません。ただ、友人は替えのパンツだけは隠し持っている可能性があります。
(続く)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます