その三
「おい、この道で本当に合ってるのかい?」友人は徐々に険しさを増していく道を見て、不安に駆られていました。
しかし、僕の方がもっと不安だったのです。なにしろ、中古で買ったばかりの車がちょっぴり大きいうえに、左ハンドルなのです。
観光地といえど、本来の姿はど田舎に変わりありません。道幅は狭くなり険しさを増していく一方です。しかも、目指す先は『洞窟風呂』。
僕達はここにきてようやく、自分達が大きな勘違いをしていた事に気づき始めました。
それは『洞窟風呂』というのは、本物の洞窟内に造られた風呂なのではないか? という事です。
いや、皆さんは既に分かっていらっしゃったかもしれませんが、当時の我々はてっきり「作り物の洞窟」だと勘違いしていたのです。アトラクションの様なものだと。
「君は本当にセンスがないな。本物の洞窟風呂なんて、都会育ちの僕達に入れる訳ないだろ」などと、一応センターラインの引かれた道路のど真ん中を走りながら、僕は友人に文句を言い始めました。
友人は「まだ分からないじゃないか。あの写真を見ただろう?」と反論してきます。
確かに、あの写真を観る限りではとても綺麗で清潔感のある温泉なのです。本物の洞窟だなんて微塵も感じさせませんでした。しかし、車はどんどん山の中へ入って行きます。
車内に険悪な雰囲気が漂う中、ついに目的地が見えてきました。
因みに、この時僕が友人に言い放った「バーバースタイル、バーバースタイルって、君は自分の後頭部を見たことがあるのか? それはただの坊ちゃん刈りじゃないか」という一言をきっかけに、彼はのちに『心療内科にパーマの予約をする』という事件を起こすのですが、それはまた、別の話。
(続く)
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