第3話
「あ、私チーズハンバーグとシーザーサラダもお願い」
頼子は、チーズ好きだ。今日は、街唯一の食堂で、この前の埋め合わせだ。
食堂には、ひとりで来ている客が、もう一組、他にいた。
「おっ、陸くん。今日は、頼子ちゃんとデートかい?」
この街の人間で、食堂のおじさんを知らない人間はいない。おじさんも僕たち街の子供たちは、全て知っているようだ。
「そうなの。お兄ちゃんとの大切なデートだから、腕によりをかけてね」
「オッケー、まかせとけ。とびっきり美味いハンバーグを作ってくるぜ」
僕は、頭を抱え込んだ。
「旅館のおじさんが、駅看板を出したいらしい。コトノミフネの出演が希望らしい」
「いいわよ。セクシーな私効果で、お客さん満員間違いなしね」
(どこが?)
とは、思っていても、もちろん口には出さない。
「旅館の武田さん、期待満々らしい。陸くんマジックだね」
食堂のおじさんは、言ってしまってから、あわてて口を押さえたが、間に合わなかった。
「三上さん。陸マジックとは、どういうことかしら?」
食堂のおじさんは、三上さんという。
おじさんは、しまったという顔をして、口を押さえた手をひらひらさせて言い訳をした。
「いや~。頼子ちゃんの魅力が、陸くんの手によって、より引き出されるというか…。街のアイドル頼子ちゃんだからね」
分けのわからない事を言いながら、おじさんは厨房へ退散した。
「これで、おじさんのサービスが、何かあるわよ」
頼子は、わざと厨房に聞こえる様に言った。
「もう、いいよ。今日は僕のおごりだからね。何でも好きな物を頼みなよ」
再びメニューを開き始めた。
いつのまにか、僕たちの他にいた、お客さんが、そばにたっていた。
「済みません。少し、時間良いですか?」
その人は、名刺を出しながら、僕に話しかけた。
顔を上げた僕は、驚いた。
名刺を出さなくても僕は、この人を知っていた。
高宮洋介。キノナツミの生みの親だ。
「どうやら、僕の事を知っているようだね」
「この世界で、あなたの事を知らない者はいないでしょう」
「そして、君の事もね。それから君の彼女もね」
僕が否定する前に、頼子が、高宮洋介にぴしゃりと言った。
「デートだって分かっているなら、邪魔をしないでくれます」
高宮さんは、驚いた顔をして、しかし、素直に謝った。
「これは、失礼しました。看板も魅力的だけど、本物は、もっと魅力的ですね。では、
そう言って、お店を出て行った。
「何よあれ。ちょっと自分が、イケメンだと思って、失礼しちゃうわね」
頼子は、プリプリしていた。
「あれは、高宮洋介。キノナツミを造り出した人だよ」
店のおじさんとしては、先程のお詫びのつもりだっのだろう。頼んでもいないのに前菜が、出てきていた。
こんな田舎町にしては、おしゃれなイチジクの煮物を口に運んでいた、頼子の箸の動きが止まった。
「あれが、キノナツミの製作者」
「そう。あの口ぶりからして、看板の頼子の顔が、作られたものではない事を見破っている」
「まずくない。イチジクの事では、なくて」
「分からない。どういう人なのか。何とも言えないな」
「でも、イケメンね」
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