第2話

 そもそも、ある企業が、駅の看板に自社の広告を出そうとすると、素材がバーチャルアイドルか、人間のタレントかの区別を申請しなければならない。


 取り締まり方法が、根本的に違うからだ。ポス倫の都合で作られた法律だったが、人間よりもバーチャルアイドルでの広告許可は、出やすい。


 ポス倫のセクシー路線一掃後、バーチャルアイドルを創造していく者は、直接的な表現を避けたからだ。


 僕の幼なじみ、野々宮頼子のバーチャルアイドル化は、この街の銭湯に広告依頼されたのが、きっかけとなった。


 すでに、僕は、広告用バーチャルアイドルを何体か造っていたから、依頼が来ても不思議はない。


 僕が造った今までのバーチャルアイドルたちは、特に人気も出なかった。多くの彼女たちの様に産み出されては、消えていく存在だった。


 今回もそう思った。看板として機能していれば、それで良い。銭湯が救えれば、それでよかったのだ。


 そのため、銭湯が、今までの丁寧な清掃で、磨き込まれた味わいのある設備だという事と今回改善されたセンスの良い照明に反映された、オシャレな施設である事を売り込めば良いと考えていた。


 つまりバーチャルアイドルは、映像に動きをつけるためだけの存在だったのだ。


 だから、あまり意識せず、濃い顔でない頼子をそのまま使ってしまった。もちろん首から下は、今までにコツコツ造りためた物を使った。


「どう考えても、頼子に、そんな胸があるわけないだろう」


 看板が出来た当初、街の友人たちが、クレームをつけてきた。


 真相は、分からない。


 人気に火がついた看板を見るために、このひなびた田舎町に、全国から大勢の人が押しかけた。


 噂が、噂を呼び、全国ネットのテレビにまで取材されて、さらに人気を増していった。


 こうなるとポス倫も黙っていなかった。何といっても入浴シーンだ。しかも自然な本物の人間の様に見える。


 実際、顔は本物の人間で、身体は、長年造り貯めた高品質のものだ。今回は、それが裏目に出たようだ。


 ポス倫から銭湯に、製作者に関する問い合わせがあったと連絡を受けた時、まず頼子を隠した。


 この小さな街の人々の協力は、すぐに得ることが、出来た。

 頼子の事を秘密にして、映像をこの街から外に出さないと約束した。動画を見るには、この街に来るしかなく、結果的に街が潤う。


 ポス倫の面談は、この街の中学校で行われた。この街には高校が無く、僕は隣町に通っている。


 ポス倫のメンバーは、ふたり。上代武かみしろたけしさんと、大橋渡おおはしわたるさんという方たちだった。


 まずふたりは、僕の産み出した存在が人気者になって良かったと言ってくれた。


「ところで、君の造った映像だが、裸だね。いわゆるセクシー路線は、駅看板で禁止されているのは、知っているね」


 上代さんという方がバーチャル課の課長という立場らしい。


「しかし、僕が広告を依頼されたのは、銭湯です。服を着ているのは、不自然ですし、水着にすると、それこそ禁止された路線ではないかと」


「確かにそうだね。しかし君の作品は実に良く出来ている。言い換えればリアルだ。もしこれが、バーチャルでなく本物であれば、規制対象になる」


 大橋さんは、主任という立場らしい。


「その場合は、逮捕ですか?」


「そうなるね。この世界は、公共の場での広告ということを分かっていない人がいるからね。子供たちの目にも入る場所であるという事を忘れないでほしいからね」


「わかりますが、子供も銭湯では、裸ですからね」


 どうやらポス倫は、単純にセクシー路線を意識して作ったのかを問題にしているだけらしい。頼子自身をそのまま使った事には、気付いていない様だ。

 

 その日は、そのまま解放された。彼らが、何時までこの街にいるのか分からないが、しばらく頼子には、引きこもってもらう事にした。


 三日間、街に滞在したポス倫は、看板目当てに来る大勢の若者たちを横目にして、帰って行った。


「あら、もう帰ったのね。今週いっぱいは、学校をサボれると思ったのに」


「すまなかったね。僕のせいで」


 この街唯一の宿泊施設のおじさんが、彼らがチェックアウトした事を連絡してきた。

 お礼に、この旅館の広告を造る事を約束している。

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