第3廻-ギアボーグ強襲!戦えG-FORCE!

Chapter9-FRIENDSHIP/命の順番

「お、俺がG-FORCEジーフォースに……?」



 予想外の展開になってきたな。

 俺がGジー-FORCEフォースに誘われるとは思わなかった。



「えぇーーッ! 廻がァーーッ!?」



「近年GS事件は発生件数も規模も比べ物にならないほど増加している。今まで通り少数精鋭でやるにはとても手が回らないのさ。フェニックスギアの未知数のパワーと君のコマンダーとしての類稀なるオペレーション技術……必ず我々G-FORCEジーフォースの切り札となるだろう」



「ま、待ちなさいよ! まわるの親友としてそんな危険なことさせられないわ!」


「時に命がけの捜査となる以上、ちゃんと報酬リターンは用意する。GS事件は事件解決後にGS犯罪者の危険度と発生した被害によってS級からD級にランク付けされるが、比較的捜査難易度の低いD級事件でも捜査に協力すれば最低でもこの金額の報酬は支給される」



「0がいっぱい……チョコバー換算で2000個に相当するわね……」



 なんでチョコバーで数えてるんだコイツ。



「無論捜査官の事件の貢献度が高ければさらに報酬アップだ」



「俺は別に金に困っているわけじゃない。俺の夢は」



「世界一のコマンダーになること……だろ? ならば存分にウチを活用してくれたまえ。G-FORCEジーフォースには世界有数のギアソルジャーの設備が整っている。捜査官も世界大会に名を馳せた実力者揃いだ」



 この人のような強いコマンダーとも戦えるなら確かにこれ以上無いくらいの好条件だ。


 しかし気になるのは何故今日会ったばかりの人間にここまで入れ込むのかってことだ。




「その反応じゃいまいち腑に落ちてないな? 何故ここまで自分を仲間に誘いたがるのかその理由が知りたいって顔をしているぜ」



「……ッ!?」


 俺はたじろいだ。

 やっぱりこの人は何かを狙っている。

 俺の実力とかそういうものとは別の目的があるんだ。




「君を襲ったギアボーグ、蛇凶じゃきょうはなかなか表舞台に姿を見せない。文字通り蛇のように慎重で狡猾なGS犯罪者だ。GS事件の捜査線上に浮かんでも持ち前の悪運と能力で巧みに我々の追及を逃れてきた。しかし今回大胆にも奴が自ら尻尾を見せたんだ。そんなリスクを犯してでも君が欲しくなった……ギアボーグの心境で言い直すならといったところだろうな」



 なるほど、そういうことか。

 それが俺を手元に置きたがる理由か。



 心の中で点のように散らばっていた疑念が線を紡いで一つの確信へと変わり、俺が口を開きかけたその時何かを打ち付けるような乾いた音が病室内に鳴り響いた。



「ふざけんじゃないわよ……ッ!」



 音の正体はチョコが龍舞りょうまさんの頬を打っていた音だった。

 肩で呼吸をし小さな体をいっぱいに震わせ、その顔は怒りに満ちていた。

 こんな鬼気迫るチョコの姿は久々に見るかもしれない。


「別にふざけちゃいないさ。今はお仕事モードだからな」



「要するにまわるを自分達の管理下においた上でギアボーグをおびき寄せる餌として利用するってことじゃない! まわるの命を何だと思ってるのよ!」

 


蛇凶じゃきょうに殺されたとされる犠牲者は最低でも3,000名相当存在する。捜査官なかまもかなりやられた。ギアボーグは取り込んだ感情エネルギーによって無尽蔵に成長する危険性を孕んだ危険な存在だ。ここで取り逃せばまた多くの犠牲者を出すことになるんだぞ」



「命は数じゃない! 亡くなった人には悪いけど……私にとっては殺された3,000人の命よりまわるの方がずっと大事だわ! 命ってそういうものでしょ!」 



「否定はしない。だが我々も大義を曲げるつもりはない。仮にG-FORCEジーフォースに入隊を希望しなかった場合も我々はまわる君の監視を続けるつもりだ」



「だからそれがふざけてるっていうのよ!」



 チョコが再び振りかぶり龍舞りょうまさんを叩こうとしたが、龍舞りょうまさんが手首を掴みそれを制した。



「2発目はぶたれてやらん……私はロボットアニメの主人公ではないのだ」



「……ちっ! あーーッもう! ム・カ・つ・く! 早急にブドウ糖の補給が必要だわ!」



 掴まれた手首を振り落とし、病室から出るチョコ。

 不完全燃焼といったところか、まだ怒りが収まったようではなかった。



「どこ行くんだ?」

 


「外の売店でジュースでも買って来んのよ! まわるはいつも通りりんごジュースでいいわね?」



「あぁ頼む、それと……ありがとな」



「い、いきなりなによ?」



 顔を赤らめ、ゴーグルを下ろすチョコ。

 動揺しているのかゴーグルがずれてかかっていた。



「俺さ……やっぱりチョコが友達がいてくれてよかったって思ってるよ」



「なんで恥かしげもなくそんな臭いこと言えんのよ……まったく」



「私はぶどうジュースで頼む」   



「なんで私がアンタの分まで買ってあげなきゃなんないのよこのウンコクズッッ!」



「売店は一階のエントランスにある。ここは都内一デカい病院で迷いやすいから気をつけるんだぞ」



「ッッ!? うるさいバァーーカ!」



 チョコは引き戸を破壊する勢いで締め、不貞腐れたように病室を出ていった。

 今日は随分情緒が激しいな。



「アカメ、念のためこっそり後から着いていってやれ」



「……」



 アカメさんはコクリとうなづくと龍舞りょうまさんの指示通りスタスタと病室を抜けてった。


「随分嫌われたものだ。しかし自分以外の人間のためにあそこまで怒る事が出来るとは……今も顔がヒリつくよ。君にはいい友達がいるんだな」


 打たれた頬をさすり、やれやれと言った具合に首を振っていた。



「昔から破天荒なやつでしたから……でも俺は親友だと思ってます」



「それは微笑ましいものだな」


 普段はギアソルジャーに目が無く、変なところも多いけれど仲間思いで優しい女の子だ。


 兄さんも言っていた。

『ギアソルジャーが本当に好きな奴に悪い奴はいない』と。



「ところでアカメさん……でしたっけ? あの人もG-FORCEジーフォースの捜査官なんですか?」



「あぁ……まぁがな。君もAIアイDROIDドロイドは知っているね? 最近CMで話題になっていたアレだ」




「【お世話もお洒落もアイドル級!】ってキャッチフレーズで触れ込んでる多機能女性型アンドロイドのことでしょ。俺の家にもいますよ、もっとゴツゴツした見た目のやつだけど」



「アカメはその最新型だ」



「う、嘘ォーーッ!? どう考えても人間でしょあれは!!」



「君の家にあるやつはどうか知らないが、アカメのような第7世代型のAIアイDROIDドロイドは高精度の深層学習ディープラーニング機能とコミュニケーション能力を有している上、見た目はほぼ人間と変わらない。既にいくつかの国では精神医療における臨床実験の一環として人間の子供と一緒の学校に通ったり、会社の重要業務を任されたりされているそうだよ」



「そうなんですか……しかしその割にはアカメさんはウチのAIアイDROIDドロイドよりずっと無口でしたけど」



「アカメはGS犯罪捜査用に改造し過ぎて発話機能を失っている。ただ与えた命令には120%応えてくれるウルトラメカウーマンだ。GS犯罪の検挙率はそこらの捜査官よりよっぽど高いぞ」


 身体のパーツの精巧さ、肌の質感、瞬きや呼吸などの仕草一つとってみても普通の女の子にしか見えないのに中身は機械仕掛けのロボットなのか。


 人類の進化って凄まじいな。

 




「ん、ギアシューターに捜査無線が入ったようだ……この番号はここのエントランスだな……ひいらぎだ、どうした?」



「たった今歯車はぐるまわる君に会いたいという女性がお見えになりましたが、お通ししても大丈夫でしょうか?」



「君、やっぱり意外とモテるのかい? 隅に置けないねぇ」



「俺にチョコ以外親しい女の知人はいませんよ。母親も長期海外出張でしばらく会ってないし、今言った通り家政婦代わりのAIDROIDアイドロイドはいるけど……」



「素性がわかるものは何も持ってないのか? ギアシューターとか」



「それが……ちょっと変なんです」



「変?」



「彼女もコマンダーのようで彼女の持っていたギアシューターに記録されていたコマンダープロフィールをアストラルネットで検索したんですが閲覧が出来なくて」



 龍舞りょうまさんは少し思案するように指を顎にのせる。ほどなくして電話越しにエントランスの捜査官に指示を出した。



「そのコマンダープロフィール、私のギアシューターに転送してくれ。隊長権限でG-FORCEジーフォースのホストコンピューターを中継し直接検索すればあらゆる検索フィルターを突破出来る」



「わかりました、今ひいらぎ隊長のギアシューターに転送します」



龍舞りょうまさん、コマンダープロフィールが閲覧出来ないってことある? アストラルネット使ってて」



 アストラルネットは太陽系間でも快適に通信が行える優れもの。

 アクセス遅延が原因ではないだろう。

 コマンダープロフィールが閲覧出来ないのには別の理由がありそうだ。


「コマンダープロフィールが閲覧出来ないとすれば有力な理由は2つ。

 ①我々が捜査上の都合で閲覧を制限している。

 そして……ッ!?」



 転送されたコマンダープロフィールを見て龍舞りょうまさんは驚きのあまり固まっていた。



「どうしたの?」



七彩ナナイロリズ……そうかそういうことか」



「コマンダープロフィールが閲覧出来ないもう一つの理由はな……②って場合だ! 七彩ナナイロリズは2年前に蛇凶によって殺害されたG-FORCEジーフォースの元捜査官だ!」



「じゃ、じゃあ今電話の向こうにいる女は……まさか!?」



「目の前の女を絶対逃すな! そいつはS級GS犯罪者の蛇凶じゃきょうだ!」




「あーあ……バレちゃったみたいね。まぁいいわ……遊びの趣向を変えましょうか」



「くっ……ァァァァァァ!」



 電話越しに聞こえる捜査官の叫び声。

 何か肉を噛み潰すような耳触りな音。

 いる……蛇凶じゃきょうがまた人間を食ってるんだ。

 直接見えてるわけじゃないのにアイツが何をしているのか感じ取れる。


 俺の体内にアイツの創成因子ホビアニウムがあるからかもしれない。


 心臓に巻きついた蛇凶の創成因子ホビアニウム蛇凶じゃきょうと共鳴しているんだ。


 そしてこれは多分だけどアイツも。



「胸が疼くわ……歯車はぐるのボウヤの魂を身近に感じる……しかもどういうわけか最初に会った時よりも更に強くなっている……ッ!」



 俺の存在を感じているはずだ。

 だからこそ現れたんだ。



「それじゃはじめましょうか……仕込みを♡」 



 蛇凶じゃきょうが蛇を出した!

 今までとは比較にならないすごい数だ!

 次々に人を襲い始めている!

 G-FORCEジーフォースの捜査官達も応戦しているけど長くは持たない……蛇が多すぎて対応が追いつかないんだ!



「もう君は蛇凶じゃきょうの存在を感じてるようだな」



「アイツ……一階にいる人間を無差別に襲い始めました」



「だろうな。奴なら本命を食う前にゲーム感覚で周りの人間全員を順番に皆殺しにする」



「な、何でだよ……ッ! 俺を食うのが目的なんだろ!? なのに皆殺しって!!」



「最初に言っただろう? 蛇凶じゃきょうは感情エネルギーの中でも特に【恐怖】を好んでいると。君に限界まで恐怖を感じてもらうために出来ることは徹底して行うだろう。『いつ殺されるか分からない……次に殺されるのはお前だ』と君に印象づけるためにな。アイツはそういう奴だ」



「……っ」



「とにかく君はここにいろ。今からこの病室をアストラルギアフィールドで囲む。絶対安全ではないが時間稼ぎにはなるだろう」



「俺も連れてって下さい!」



「駄目だ。君の実力じゃ蛇凶じゃきょうクラスのGS犯罪者には全く歯が立たないだろう。みすみす殺されに行くようなものだ。我々の目論見通り蛇凶じゃきょうを誘い出すことに成功した。君は十二分に役割を果たしたんだよ。だから後は我々に任せろ」



「チョコは今一階にいます。もしそこで蛇凶じゃきょうと接触すれば殺される。殺される理由なんかないのに……ただそこに居合わせただけで殺されるかもしれないんです!」



「君が危険な目に遭うのだぞ?」



「俺の代わりにチョコが死ぬなんて嫌だ! せめて命の順番くらい俺が決める!」



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