Chapter10-GEARBOROS/蛇の女王
「S級のGS犯罪者……
服や蛇に変化した肌には所々には返り血を浴びている。
彼女に襲われた人間は徐々に身体が溶けるように灰化している。
見るも無惨な光景だが彼女には嫌悪感はなく、むしろ愉悦に満ちたような様子さえあった。
まるでお菓子の袋を開けるが如き軽快さ。
彼女にとって殺人は食事の過程であり日常なのだということを意味していた。
自分に声を掛けて来た3人の男を確認すると蛇凶は「なるほど……」と呟き、こう続けた。
「病院内にいる人間は皆
「
「
どうやら面識があるようだった。
「お前は既に袋の鼠だ!」
ガチャン。
『
『
『
男達は一斉にギアソルジャーを取り出しギアシューターにはめた。
特有のガイダンスボイスの後に、ギアソルジャーのソウルギアが起動し機体に光が灯る。
「S級のGS犯罪者はその場での殺害が許可されている!」
「全員でかかれ!」
「はぁ!」
射出された三体のギアソルジャーは上空、足元、背後からソルジャーナイフを突き立てようとする。
「なかなかの感情エネルギーね、魂の練度も悪くなさそう」
「なっ!?」
避けるまでもなかった。準備の必要もなかった。
3人の捜査官が蛇凶を殺すつもりで放った攻撃は彼女にとって脅威にもなり得なかったのだ。
「人間は浅ましいものね……集団で囲っているだけなのに恐怖を忘れて強くなったつもりになるなんて……私がすぐに思い出させてあげる」
捜査官達には驚きと動揺と……恐怖が静かに忍び寄っていた。
「怯むな! 連携攻撃だ!」
「わ、わかった!」
「必殺技発動!」
『
必殺技トリガーが押されたのと同時に噛み止められたソルジャーナイフを手放し、三体のギアソルジャーは必殺技発動の体制に入る。
各々が手を繋ぎ、陣形を作る。
その陣形はギリシャ文字の
「
「ギア!」
「フォース!」
そして蛇凶に狙いを定めると、高速回転しながら突っ込んできた。
口元を覆っていたスカーフもまた必殺技を食らった影響で破けており、
爬虫類種のような赤い瞳に、耳まで裂けた口元。
醜悪な蛇と絶世の美女が混ざったようなアンバランスな容姿は得体の知れない妖艶さを醸し出していた。
「や、やった! S級犯罪者の
「……」
しかし以前としてその眼は光を失っていなかった。まっすぐ捜査官を見つめていた。
今まで以上に眼を細めて、笑顔を浮かべながら。
「な、なんだ!?」
「
一、身体が
二、欠損した身体の部位が徐々に再生していく。
三、元通り復活し、何事もなく立ち上がる。
これがたったの5秒間に起きた出来事である。
「身体が元通り再生した……噂には聞いていたがこれがギアボーグの力……」
「…………終わり? まぁいいわ、貴方達如きの魂でも前菜程度にはなりそうね」
彼女は舌舐めずりをしながらゆらゆらと揺らめき近づいてくる。人間の動きではない。
陽炎のような、あるいは蛇のような。
少なくとも恐怖に支配された捜査官からはそのように見えた。
「こ、この……化け物め!」
「そうよ、あなた達はその化け物に殺されるの」
その影響を受け、ギアソルジャーは形を変え、無数の蛇の意匠が刻まれた紫色の毒々しい装甲に全身が包まれていく。
「なす術もなく……一方的な恐怖を叩きつけられてね♪」
薬指にしていた【恐】と掘られた指輪にも蛇凶の創成因子が込められ、指輪はギアソルジャー同様に蛇の意匠の施されたギアシューターへと変貌する。
ガチャン。
『
眼にあたる頭部の装甲だけでなく、全身に施された蛇の眼にも怪しげな赤色の光がともる。
ギアボロスと名付けられた恐ろしい姿のギアソルジャーは手乗りサイズの機体とは思えないほど、重厚な存在感を放っていた。
「さぁギアボロス……凶宴の時間よ」
「…………え?」
何が起きたのかもわからず、3人の捜査官は呆然と立ち尽くしていた。
3人とも決してよそ見をしていたわけではない。コマンダーとして弱かったわけではない。
ギアボロスの能力で蛇を作りだし弾丸のように飛び出したそれらが三体のギアソルジャーはソウルギアごと粉々に砕かれた。
瞬きを終える間の出来事である。
勝負と呼ぶにはあまりにもあっけなく、あまりにも容易く、あまりにも一方的な決着である。
そして
既に完全に戦意を喪失してる上
「袋の鼠……貴方はさっき私にこう言ったわね?」
一、左手を前に突き出す。
二、突き出した左手が大蛇に変化し、向かって左側の捜査官を噛み潰す。
三、返り血で血塗られた地面をゆっくり踏み締めるように進む。
「さぁ……答えなさい鼠はどっちかしら?」
「ひ、ひぃ……ッ!」
問いかけられた男は恐怖による硬直が解け悲鳴を上げた。
「獲物は……どっち?」
一、右手を前に突き出す。
二、突き出した右手が大蛇に変化し、向かって右側の捜査官を噛み潰す。
三、さらに近づいていく。
あまりにも手慣れた殺人術はどこかテーブルマナーに従って料理を口に運ぶ動作を彷彿とさせるような機械的なルーティンにも見えた。
「う、うわぁぁぁぁぁ!」
恐怖による支配。
力による蹂躙。
意図も容易く奪われる命。
目の前で同僚が殺され、最後に生き残った捜査官は
その様子を見て、
「仕上がった……食べ頃ね♡」
恐怖という調味料を得て、ついに出来上がった
「嬉しいわぁ、やっと自分が鼠であることを理解出来たのね。でも残念ながらギアボロスは神が造りしギアソルジャーであり私自身……決して逃げられはしないわ。人間が恐怖から逃げられないように……ね」
ギアボロスから伸びた大蛇がさらに4股に別れ、捜査官の両手両足を縛り上げる。
「や、やめろ! やめてくれぇぇぇぇぇぇ!」
当然やめるわけもなく、そのまま捜査官は噛み殺された。
やがてその他の捜査官の肉塊とギアソルジャーの残骸は灰となり朽ちた。
これで一階にいた人間はあえなく全滅。
彼女の通った後には血溜まりと灰しか残らない。
走る必要はない。
焦る必要はない。
私はいつだって絶対なる捕食者。
命を弄ぶ権利は常にこの私にある。
獲物に恐怖を植え付け、じっくりと追い詰め、喰らう。
それが私の
「私としたことがまだ生き残りがいたのね……隠れても無駄よ出て来なさい」
病院内に売店として存在するコンビニエンスストアの中、そこの入り口から2番目の棚に隠れた人間が一人……いた。
上手に気配を殺しているが、生物である以上熱を止めることは出来ない。
蛇の特徴を併せ持つ
背格好からして恐らく大人ではなく子供だろう。
気まぐれに逃がしても面白いとも思ったが、これだけの騒ぎの中迂闊に動かずに、私がどこかへ去るまで身を潜めることに徹した。
冷静な判断力以上に恐怖に屈しない胆力の方を評価し、興味を持った。
「アンタが……ギアボーグね」
観念したように、ゴーグルを降ろしたチョコが物陰から姿を現した。
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