Chapter8-SOUL LINK/夢を照らす光


「何なの? この創成因子ホビアニウムの上昇スピード……普通じゃないわ! それに……」



『コマンダーからも同種の創成因子ホビアニウムが溢れ出して来た! まわる!? あの男も蛇凶じゃきょう達と同じではないのか!?」



 人間の体から直接創成因子ホビアニウムが作られるなんてことは有り得ない。


 作ることが出来るとすればそれは体内にソウルギアを内蔵しているギアボーグをおいて他にない。



「アンタもアイツらと同じギアボーグなのか?」



「低次元な答えだな、だが不正解でもない。私も彼らもだからな」



「君にソルジャーゲームのいろはを教えたのが誰か知らないが、流石にまだソウルリンクは教わっていないようだ。やはりここは実戦の中で学んでもらうことにしよう」



「……ッ!?」



 殺気……それもただの殺気じゃない。


 自分の命を何度も危険に晒して来た人間にしか出せない洗練された殺気。


 まるで心臓を直接殴られたような衝撃が走り俺は一瞬たじろいだ。そして理解する。



 俺とこの人では超えてきた修羅場の数が違い過ぎる……と。



『行くぞ! フェニックスギア!』



 ドラゴナイトブレイヴはソルジャーナイフを取り出すとフェニックスギアに迫った。



「来るぞ! ギアライフルだ!」



 フェニックスギアが指示通りギアライフルを握ると赤くなった。



『チェイサー!』



 フェニックスギアの創成因子ホビアニウムによって創成化した赤いギアライフルから雨のように弾丸が放たれた。



『覇ァァァァァァ!』



 ドラゴナイトブレイヴはソルジャーナイフを一振り振り被るのみで全ての弾丸を弾き飛ばした。


 そして更に間合いを詰め、フェニックスギアを斬りつける。



 ガシャっと音を立てて、フェニックスギアの右腕とギアライフルがフィールドに落ちる。



『クッッ!』



 更に胸部目掛けて強力なキックを浴びせられフェニックスギアは大きく吹き飛んだ。



 まだまだドラゴナイトブレイヴの追撃は終わらない。



「必殺技発動」



FINISHフィニッシュ OVERオーバー!』



 龍舞りょうまさんはトリガーマイクの必殺技トリガーを押すと連動しているギアシューターから必殺技発動のガイダンスボイスが鳴った。



 それに合わせてドラゴナイトブレイヴの創成因子ホビアニウムが増大し更にスピードを増して近づいてくる。



龍機斬りゅうきざん!」




『覚悟ッッ!』



 一際強い斬撃音の後フェニックスギアは胴体と下半身を真っ二つに両断され地面に叩き落とされた。



「これが世界レベルの実力……」



「武器を拾え、まだゲームは終わってはいないぞ」



「無理よ、どう考えても勝ち目が無さ過ぎるわ! 今回ばかりはいくらフェニックスギアでも!」



「それとも負けを認めて降参するか? フェニックスギアの様子を見る限り太陽光吸収機関ソルブレイザーの発動時間には限界があるみたいだしな」



「……っ」



 やはりバレていたか。



 太陽光吸収機関ソルブレイザーは太陽光から蓄えたエネルギーを創成因子ホビアニウムに変換する固有ユニット。

 蓄えたエネルギーが無くなれば当然無敵時間ゴールデンタイムは解除される。



 その時間は約3分。

 エネルギーが無くなればフェニックスギアの装甲は煌びやかな赤色からくすんだ灰色へと変化する。


 今のフェニックスギアの状態を見る限り持って後1分ってところだろう。


 それまでにドラゴナイトブレイヴを倒さなくては負けだ。


 まさに万事休すだな。



『ハァハァ……』



「どうした? 世界一のコマンダーになるのだろう? それともまた恐怖に心を縛られてしまったのか? 歯車はぐるまわるの実力はこの程度だったのか?」



「……」



 ドクン。

 ドクンドクン。

 ドクンドクンドクンドクン。



 不思議な気持ちだ。

 圧倒的な実力差を見せつけられ、もう後が無い状況なのに俺の心臓は今最高潮に高鳴っている。


 本当に意味が分からねえ。

 でも一つだけはっきりしてる。


 この気持ちは絶望でも恐怖でも無いってことだ!



「まだ俺の……俺達の無敵時間ゴールデンタイムは終わってない」



「ほう……そうか、まだ諦めないんだな」



「それに俺……なんだか嬉しいんです」



「これだけ追い詰められた状況でもか?」



「はい」



 自然と笑みが溢れてくる。

 諦めとか自嘲から来るものじゃない心からの笑顔だ。



「何故、そう思う?」



「やっと自分の進む道が見えた気がしたから! 全部アンタのおかげだよ龍舞りょうまさん!」



「フッ……アッハッハッハッハ! 最っ高だ! どんな絶望の中でも笑顔を絶やさない、君は私が好きなアニメの主人公そのものだな!」



「必ずアンタの所まで追いついてやる!! 追い抜いてやる!!!」



「ならば踏み込んで来い! まで!」



『チェーーリィーーッシュ!』



「フェニックスの体が元通りに再創成リアニマライズされたわ!」



「心の太陽はまだ沈んじゃいない! このソルジャーゲームは最後の最後まで楽しみ抜いて……アンタに勝つ!」



 俺は自分の心臓に自分の親指をグッと押し込んだ。


 まるで自分の心にサムズアップをするような仕草。


 それは昔から兄さんが癖でやっていた絶対勝つって覚悟を決めた時のポーズだった。



「素晴らしい……不死鳥の名を冠するギアソルジャーに相応しい能力! だが戦力差は以前変わらないままだ! やれ!」



『来いギアライフル!』



 フェニックスギアは手をかざすと、フィールドに捨てられていた赤いギアライフルがまるで引力で吸い寄せられるように手元に戻ってきた。

  


創成化アニマライズした物体はギアソルジャーの意のままに操ることが出来る……厄介じゃな。だがその銃弾は決して当たらんぞ!』



『チェイサー!』



 フェニックスギアが地面に向かって射撃を繰り返しその衝撃によって煙が辺り一面に立ち込めていった。



『目眩しのつもりかァ! 味な真似を! しかし無駄なことだ! 創成因子ホビアニウムの流れさえ分かれば例え目を閉じていても姿を捉えることが出来る!』



「必殺技発動!」



FINISHフィニッシュ OVERオーバー!』



 俺はトリガーマイクの必殺技トリガーを押し、ギアシューターからは必殺技発動のガイダンスボイスが流れる。



「来るか、フェニックスブレイカー!? ならばこちらも迎え撃つまでだ! 必殺技発動!」



FINISHフィニッシュ OVERオーバー!』



龍機斬りゅうきざん!」



 再び必殺技発動を宣言し、ドラゴナイトブレイヴはソルジャーナイフを構え必殺技発動の体制に入った。



『そこだ! ギアライフルの引き金を引く前に仕留める! 覚悟ッッ!』



 ドラゴナイトブレイヴはフェニックスギアの創成因子ホビアニウムが高まるのを感知し、攻撃を仕掛けた。



『なっ、なんじゃと!?』



 しかし、そこにはフェニックスギアの姿は無い。


 あるのは宙に浮いた状態で赤い創成因子ホビアニウムを発していたギアライフルのみ。



「ドラゴナイトブレイヴが感知したのは遠隔操作されていたギアライフルの創成因子ホビアニウム! ならば本物は……ッ!?」



『後ろだ』



『し、しまったッ!?』



 フェニックスギアは既にドラゴナイトブレイヴの背後に回り込んでいた。そしてその手に握られていたのは創成化アニマライズされ、炎のような創成因子ホビアニウムを纏った赤いソルジャーナイフだった。その刀身にはギアライフルと同様太陽の意匠が施されている。



『いよいよ無敵時間ゴールデンタイム最高潮クライマックス!』



「これで終幕エンドロールだ!」



突如ドクンと再び心臓が大きく跳ねたと同時にフェニックスギアの見ている景色、聞こえる音や匂い、苦痛や疲労感、そして太陽のごとく迸る感情の数々が俺の身体に伝わってきた。



 これがフェニックスギアの気持ち……魂の鼓動なのか。



 苦しい……痛い……でも楽しい……楽しい! 楽しい!!



 そうか、お前も同じなんだな。

 ソルジャーゲームが大好きで。

 互いに魂をぶつけ合う真剣勝負の一瞬一瞬にワクワクが止まらない。



 なら一緒に行こうぜ、相棒。

 もっと……もっともっと高みへ!



 


 俺の魂の鼓動とフェニックスギアのソウルギアの鼓動が一つに溶け合い混ざり合うような感覚が全身に駆け巡り俺の右手が熱を帯びたように熱くなった。




「これは……まさか……来るのか!?」



 龍舞りょうまさんが驚いている。

 それもそうだ俺の右手にもあの時の龍舞りょうまさんのように赤い創成因子ホビアニウムが宿っていたから。




 今行くぞ、フェニックスギア!



 俺は覚悟を決め赤く光る右手をギアシューターのソウルギアに乗せた。



SOULソウル LINKリンク!』




ギアシューターから聞いたことのガイダンスボイスが流れて、赤い創成因子アニマライズが溢れ出る。


 



『心の通わぬ力では何も成し遂げることは出来ない。故にコマンダーは自らがギアソルジャーの心になることで真の力を発揮する。見せてやろう、これが君の目指すという次元だ!』



 あの時龍舞りょうまさんの言っていたことの本当の意味を頭ではなく体で理解した。


 俺はもうフェニックスギアの後ろにいるだけの存在じゃない。


 

 この先に俺の夢があるのなら……前に進むだけだ!


 

 俺と……フェニックスギアで!



「『ウォォォォォォォ!』」



「この土壇場でソウルリンクを成功させた!? そうかァ……まさか本当にまで踏み込んでくるとはなァ 歯車はぐるまわるゥ!」




 龍舞りょうまさんは驚きつつも、笑っていた。

 まるで新たなライバルの出現を祝福するように。



「フェニックススラッシャー!」



『チョッパァァァァァァァ!』



 大きく踏み込んだ軸足を起点に放たれるダイナミックな回転斬りとドラゴナイトブレイヴの強烈な一薙ぎがぶつかり合った。



 フェニックスギアの必殺技の軌道は太陽のような綺麗な円を描きながら尚も残り火のような創成因子ホビアニウムがフィールドを焦がし続け、ドラゴナイトブレイヴの必殺技もまたその余韻で激しい暴風を発生させ赤い創成因子ホビアニウムが燃え広がっていく。



 既に太陽光吸収機関ソルブレイザーは発動限界を迎え、フェニックスギアの装甲は灰色に染まっていた。



『クッ……もう力が……』



「な、なんだ……俺まで……」



 フェニックスギアが倒れると同時に俺も糸が切れたマリオネットのようにその場に倒れ伏した。



『勝負有り……じゃな』



まわる! 大丈夫!?」



 チョコはすぐさま俺に駆け寄り抱き抱えた。



「無理もない。ソウルリンクはコマンダーとギアソルジャーの心を繋げることでパワーアップを行う戦術。しかし裏を返せばギアソルジャーが受けたダメージや疲労感も同時に共有してしまう諸刃の剣でもある」



「ハァハァ……これがソウルリンク……そうかフェニックスギアは今までこんなボロボロになりながら戦っていたんだな」



 俺はフェニックスギアを労うように、手を伸ばして機体を撫でた。



「本当にお疲れ様、ゆっくり休んでくれ」



『……』



「こんな時でも自分よりギアソルジャーの心配か。私はますます気に入ったよ。そこで君の才能と人格を見込んで一つ提案があるんだが、いいかな?」



「提……案?」




「正式に君を対GS犯罪特殊部隊Gジー-FORCEフォースのメンバーにスカウトしたい」

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