第2話 魔女狩り
美鈴の言葉で世間は一瞬にして厳戒態勢となった。
魔女の恐ろしさはすでに誰もが知るところであった。
魔女は畏怖の対象である。
だが、だからと言って、誰もが家に引き籠れるわけじゃない。
街は動いているわけだから、どこで起きるか解らない魔女に怯え続けるわけにはいかない。
誰もが魔女に怯えつつも日常生活を送る。
学校だって、簡単には休校にはならない。
東京近郊のとある街。
閑静な住宅街の路地裏では三人の少女達が泣きながら逃げていた。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
懸命に謝る。彼女達にはそうせざるするしかない事情があった。
三人の前に突如、1人の制服姿の女子高生が現れる。小柄でどこか暗い感じのする三つ編みの少女。まるで幽霊のようにスッと現れた彼女に三人の女子高生は驚き、その場に蹲る。
「た、助けて。絵美、私達が悪かった。何となく揶揄っただけなんだよ」
女子高生の1人がそう叫ぶ。
「そう・・・どうでも良いわ」
そう三つ編みの少女が呟いた瞬間、三人の首が強い力で右や左を向いていく。
「ぐうぐううううう」
息も出来ず、苦しむ三人。その様を三つ編みの少女は笑って見ている。
1分程度、経ったところで首は反対を向き、少女達は窒息死した。
「ははは・・・死んだ。死んだ」
少女は小躍りするように喜ぶ。
「もっと・・・もっとだ・・・私を苦しめた世界を・・・破壊する」
少女の姿はそのままスッと消えた。
美鈴は拘束具と呼ばれるプロテクターを身体に装備する。これは防弾、防刃効果のあるプロテクターであるが、遠隔操作によって、彼女の身体を拘束する機能も備えている為、そう呼ばれている。プロテクターを装備した美鈴の姿はまるで鎧武者のようだった。
「隊長、美鈴の準備が終わりました」
美鈴の着替えを手伝った元自衛官の桜田都が待機室に待っていた隊長に報告をする。
「そうか。では出撃だ」
隊長の江端達樹は電子タバコを机に置いて、立ち上がる。その場に居た5人の隊員達も立ち上がった。
彼等の戦闘服の腕には魔女のイラストが描かれたワッペンがある。
彼等こそ魔女狩りをする専門部隊。対魔女処理係である。
内閣直轄の彼等は魔女が出たとなれば、日本中、どこにでも派遣される。
「今回は東京近郊か。近くて助かりましたね」
部下の1人が苦笑しながら、隊長に言う。
「あぁ・・・日帰りで終われば良いがな」
全員が自衛隊が用いる8輪装甲車に乗り込む。
最後に乗り込むのは鎧武者姿の美鈴である。
「相変わらず、ごつい拘束具だな。もっと軽量化が出来ないのか?」
隊員の1人が心配そうに言う。
「悪いが、魔女の力を抑え込む・・・にはそれぐらい必要だって事だ」
「へへへ。こいつはまだ、魔女を見た事が無いからな」
別の隊員が心配をした隊員を揶揄う。
「そうだな。魔女を見れば、気持ちも変わるだろう」
隊長が冷たく言い放つ。
魔女は忌み嫌われる。
それは一度でも魔女に遭遇した者なら誰でもそうなる。
その中で、美鈴はただ、黙っているしか無かった。
車は美鈴が示した場所に到着した。
隊長は付近を眺める。そこは商店街であったが、人はまばらであった。
「すでに付近は警察が警戒をしています」
「人の姿もあるな」
「警報は出ていますが、避難命令は出ていません」
「ここはまだ、魔女の被害に遭った事は無かったか」
「はい」
「じゃあ、間もなく知るだろう。魔女の恐怖をな。美鈴。敵の位置は?」
美鈴は目を閉じ、意識を集中する。
「北北西にそれらしき力を感じます」
「北北西か・・・街の造りだと学校があるな」
「高校です」
「よくあるパターンって奴か・・・虐殺が起きる前触れだな」
隊長は嫌そうな顔をする。
「総員、戦闘準備。このまま、この学校へ向かうぞ」
「警察には学校の避難を始めさせろ。避難が始まったら・・・惨劇が始まるかもしれん。急げ」
彼らは自動小銃などの武器を手にすると、再び、装甲車に乗り込み、移動をした。
高校では生徒達がいつも通りに生活をしていた。
あまり目立たない場所にある女子トイレの個室では全身を刻まれた女子生徒の姿があった。彼女の前には同じ制服を着た三つ編みの少女。血で染まった個室を眺め、彼女は笑う。
「あぁ・・・あぁ・・・気持ちがいい。生まれて初めてだ。こんな気持ちが良いのは・・・もっと・・・もっと・・・殺したい・・・壊したい」
少女は次の獲物を探す為に歩き出す。その時だった。
「全校生徒に連絡します。至急、避難をしてください。警察官の指示に従って、避難をしてください。校舎の外から出てください」
切羽詰まった声で避難が指示される。
「もう・・・バレてしまった?」
少女は怒りに満ちた形相となる。だが、すぐに落ち着いて、ニヤリと笑う。
「いいわ・・・これから起きるショーを楽しみにしてなさい」
校庭には警察車両が集まり、校舎から出て来た生徒達を警察官が避難誘導している。
生徒達は何事かと思いながら、然程、危機感も無く、指示に従っている。
「本人確認を行います。生徒手帳を持って、こちらを必ず通ってください」
生徒が列を成している中で、突如として、多くの生徒が苦しみ出し、その身体を捩じり、そして、倒れた。
「はははっ。ここに居る者は全て皆殺しだ。全てを壊してやる」
高笑いをしながら、三つ編みの少女はその力を解放した。
「魔女」
美鈴はそう呟いた。
「もう出たか」
隊長は怒りに満ちた表情をした。
「到着します」
運転手がそう告げる。
「到着と同時に下車・・・戦闘だ。美鈴・・・頼むぞ」
隊長は美鈴を見て、そう告げると彼女はコクリと頷く。
装甲車は玄関へと飛び込み、逃げ惑う人々の中に飛び込む。
後部のハッチが降ろされ、隊員達が飛び出す。
「水島、三田。左へ回れ!小野田は敵に火力を集中!」
小野田と呼ばれた屈強な体躯の男性隊員は手にしたM240軽機関銃を構える。腰ダメに構えた銃から怒涛の如く放たれる銃弾が三つ編み少女へと吸い込まれる。
だが、彼女はそれを前に差し出した両手で全て、払い除ける。
「はははっ、邪魔をするな。人間。すぐに殺してやる」
少女は狙いを小野田に向ける。
小野田の周囲の空気が変わる。
「まずい。あの魔女」
小野田は怒りに満ちた表情を変えず、銃を撃ち続ける。
「周辺の被害は気にするな。魔女を倒す事だけに集中しろ」
隊長はそう叫ぶ。
周囲に散った隊員達も手にした自動小銃や狙撃銃を撃ち始める。
「マジかよ。全ての銃弾を跳ね返しているぞ」
先ほど、美鈴を心配した心配した隊員が驚いた。目の前に居るのは制服姿の女子高生である。どこにでも居そうな女子高生が無数の銃弾を防ぎ、尚且つ、こちらに攻撃を仕掛けようとしている。
「安心して。私達には美鈴特製のお守りがある。これである程度はヤツの力を防いでくれる」
驚いている隊員の隣で桜田がそう告げる。
「美鈴さんは・・・まだですか?」
「美鈴は拘束具の関係で、安易に出せない。まだ、魔女との相関関係も解らないから、相手をある程度、抑え込んだ上でしか投入が出来無いわ。全ては隊長任せよ」
「それまで、銃弾も利かない相手を俺らが?」
「そういう事、気合を入れなさい。死ぬわよ」
桜田は弾倉を交換しながらそう告げた。
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