03 陰陽師

 呼び出された。


 屋上。


 新しい校舎になって、なぜか屋上だけが立入禁止のままだった。どこかのクラスで死人が出たという噂と合わさって、ひとごろしの屋上と呼ばれていた。


 彼女。


 屋上のフェンスに寄りかかって。


 こちらを見つめている。


「今日の授業。名前の由来のやつ」


 やはり、陰陽師のことは。喋るべきではなかった。


「あなた。鬼を退治、するのよね」


「まあ、そうやって、生きていこうと思っている」


「ここに来たのは、鬼を退治するため?」


「まあ、そんなところだ」


 飛び級のシステムがある。ここに所属しながら、学位まで取得可能だった。とりあえず、遺伝子治療や交配関係の知識だけはつけておきたい。


「わたしのこと」


 彼女。妖しいほほえみ。


「わたしの名字。わかる?」


 ここでは、偽名も普通に使える。偽名の場合は、その旨が名簿に記入される仕組み。


 彼女は、偽名ではない。


「鬼。それが、きみの名字だ」


「そう。わたしは、鬼なの」


 彼女。フェンスから身体を離して。


「わたし、ずっと思ってたの」


 こちらに、ゆっくり、歩いてくる。


「わたし、鬼なのかなって」


 息がかかるほど、至近距離。


「わたしを。退治して。陰陽師さん」


 彼女。顔が、朱い。


「自分を鬼だと思ってるわけか」


「名字だけじゃなくて、中身も、鬼よ。わたしは。じぶんのことが、抑えられない。今も」


「俺には、そうは見えないけどな」


 肩に衝撃。


 押し倒される。


「こんなこと、しても?」


「これのどこが、鬼の所業なんだよ。離れろ」


「いやよ」


 くっつかれる。


 意外と、暖かい身体。体温が高いのかもしれない。


「わたし。抑えられないの。自分が。こわい。人を襲う前に、あなたに。殺されたい」


「なんだお前」


「え?」


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