02 鬼

 わたしは、鬼だった。


 見た目は人で。両親も親戚も、みんな、人。


 でも、わたしだけが、鬼。名字も、鬼。


 人に傷つけられたり、誰かに裏切られたりしても何も感じない。やったことはないけど、たぶん人を傷つけたり裏切ったりしても、自分は何も感じないのだろう。


 サイコパス、というのかもしれない。自分のことを知りたくて、いくつか文献を漁ったりもした。

 人には共感を司る心裡的な作用があって、それは人の本質的なエネルギーと深く関わっている。人としてのエネルギーが高ければそれだけ他者に対する共感を失う。そのエネルギーの高さを、共感性とかサイコパス値とか言うらしい。


 自分の共感性は、低い。そして、抑えられない衝動は、たしかにある。人より、承認欲求が異常に高い。それは、性欲や他者コミュニケーション欲求になって押し寄せてくる。


 好きなひとが、いた。


 彼が、わたしを殺しに来たのだと。ついさっき、知った。


 陰陽師。


 わたしは、鬼だから。殺してくれる。わたしを。

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