陰陽五行、鬼の素顔

春嵐

01 陰陽師

「どういう名字の由来なの?」


 彼女。


 ほほえみながら、問いかけてくる。


「陰陽師の家系だから、かな?」


「なにそれ」


 別に、隠すようなことでもない。陰陽師の家系で、陰陽師が必要とされたのは今から千年以上も前の話だった。偽名で、名字が、陰陽師。


 一応、家を継ぐ立場にある。上の兄も姉も、特に陰陽五行に興味を示していなかった。自分には、才能がある。これを活かして生きることが、できるだけの頭もある。だから、陰陽師を継ぐ。それだけ。


 周りの人間から、質問が飛んでくる。陰陽師とは何か。ドラマやアニメみたいに、幻想的な攻撃をしたり鬼退治をしたりするのか。陰と陽って忍術みたいに色々できるのか。五行とは何か。


 彼女。


 もうこちらに興味を失い、ほかの女子生徒と談笑している。


 今なら喋っても、構わないか。


「陰陽師ってのは、ただの占い師」


 事実。何か、特別なことをするわけではない。


「ドラマやアニメみたいに手から光線出したりできないよ。相手の顔を見たり様子を確認したりするだけ。鬼退治はするかも」


 ただの、しがない占い師。そして、鬼を殺すという目的を持った、占い師。


「陰陽五行はね、今ほど科学技術が発展してなくて、とりあえず偉い人とかを安心させるための方便」


 何の意味も持っていない。


「じゃあ、鬼って、なに?」


「鬼か。鬼はね、人のことだよ」


 今から千年前。人の遺伝子が安定しておらず、奇形や異常思考がたくさん産まれた時代。そういう時代に、人の遺伝子が本能的にそれらの異常分子を排除するため役職として作り出したのが、陰陽師。


「いまは鬼なんて、ほとんどいないよ」


 医療技術の進歩や科学発展、そして何より、人の遺伝子の交配による安定化が進んでいる。千年前は、もっと雑とした状態だった。


「へえ、そうなんだ。教えてくれてありがと」


 声の主。


「あっ」


 さっきまで違う場所にいた彼女。目の前でこちらに質問をしていたのは。彼女か。


「じゃあね」


 手を振って、席につく。


 しまった。名前の由来を話す授業とはいえ、軽々に家系について喋るべきではなかった。


「鬼が」




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