第17話 対策会議

「さっきも言ったけれど彼は強いわ。それこそ全国クラスでも通用するレベル。今の伊織が彼に勝てるのは10回やって1回あったら良い方でしょうね」

「あいつ突っかかってくると思ったらそんなに強かったのか......」


その強さがプライドの高さにつながっているのだろうか?


「彼の家......風宮家はかなり力のある家なのよ。特に政界への影響力は計り知れないわ」

「おっと、本人だけじゃなくて家柄的にもプライドの塊って訳だ」


いいとこのお坊ちゃんらしい。強くて家柄もよければそりゃあ取り巻きも付く。


「ふーむ、どう戦っていくかがポイントだよなあ。正面からじゃ勝てないだろうし......」

「背後からの奇襲とかどうッスか?」

「バカかお前。幻坂ほろさかじゃあるまいし。どうやって1対1で奇襲するんだよ」


しかし俺の攻撃手段は現状【身体強化フォース】を使っての打撃だけ。それだけで奴に対抗しなければならない。


「うーん......今から体術でも......」

「残念だけれど、【身体強化】でどうにかしようと思ってるなら甘いわ」

「え?」


どう言うことだ?


「スパーリングした時、私に吹き飛ばされたのを思い出して。貴方、あの時どう思った?」

「ええと......あんまり痛くないな、と......ってまさか」


幻坂が首を縦に振る。


「そのまさかよ。【身体強化】を使えば体は強くなる。それは単純な筋力だけじゃなく体の頑健さも上がると言うこと。つまり【身体強化】の【強度ストレングス】が同等の相手ならまだしも、格上の相手にただの打撃での攻撃は通じないと思ったほうがいいわ」

「なるほどな」


相手の方が自分より【身体強化】の【強度】が高い場合、有効打にはなり得ない、と言うことか。


「じゃあ幻坂はどうやって戦ってるんだ?」


幻坂の【異能ギフト】も戦闘補助系。俺とやった時も黒岩を倒した時も通常の打撃のようだったが......


「私の場合はまず体術と急所狙いで威力を高めてるのは勿論だけど......純粋に【身体強化】の【強度】を集中させているわ」

「集中?」

「そう。第一に平均レベルの【異能者イクシーダー】の【身体強化フォース】の【強度ストレングス】は大体Eランクよ。でも私はCランクなの」

「2段階も違うのか!?」


やはりこの女、天才だ。


「そこから私は更に、打撃を与える瞬間だけ自分が攻撃している部位に集中して【身体強化】をする事で一瞬のインパクトだけ見ればBランク相当まで引き上げて戦っているの」

「そんな技術まであるのか......」

「凄いッス姉貴!」

「だから姉貴はやめなさい......まあこう言う事。わかった?」

「大体は。ちなみに俺と風宮の【強度】はどうなんだ?」


純粋な疑問だ。


「そうね......伊織が基本E、調子の良い時にはDに届くか届かないかってくらいかしら。風宮は基本D。同じく調子が良い時にはCに届くか届かないかってラインね」

「完全に1段階上なわけだ」

「そうね。だからこそ貴方が今考えるべきなのは【身体強化】に頼らない攻撃手段ってわけ」

「......難しい問題だな」

「私みたいにそれしかないって割り切るような選択肢を取るような時間もないしね」

「わかった。お前も選手なのにアドバイスありがとう。助かったよ」

「いいえ。伊織にリベンジしなきゃいけないし当然の事よ」

「リベンジ......?」


まさか模擬戦のこと、まだ根に持ってるのか!?


「貴方はAブロック、私はBブロック......つまり貴方と公でやるには決勝戦にまで来てもらわなくちゃいけないの」

「決勝戦!?」


流石に無理がある。


「貴方なら......0.1%くらいの確率で来れるんじゃない?」

「いや0.1%かよ......って可能性があるだけマシか......」

「そうね。仮に黒岩だったら0%だし」

「姉御ォ!?」


黒岩が叫ぶ。それに俺たちは笑みを交わしつつそのまま昼食を摂った。


「そろそろ戻るか」

「そうッスね。遅刻したら大変ッス」

「......元不良の言葉とは思えんな」

「学園長にしばかれるッス」

「そりゃ大変だ。早く戻れ」

「そうするッス。兄貴達も早く来てくださいッスね!」


黒岩が手を振りつつ廊下を走っていく。廊下は走っちゃいけません。


「騒がしい奴ね」

「まああれくらい騒がしい奴がいた方が賑やかになる。悪くはないよ」

「ふふっ。一理あるわね。私たちも行きましょ?」

「ああ。俺はともかく幻坂は遅刻させられない」


2人で歩き出す。昼に特別棟に用事がある奴なんて限られているから静かなものだ。


「あ、そうそう。伊織」

「なんだ?」


幻坂がトコトコと俺の少し前へ歩いて行った。そして振り返り......


「割と、期待してるわよ?」


そう言ってニッコリ微笑んだ。


「ッ!?」


その微笑みの破壊力は凄まじく......その後俺はどうやって放課後まで過ごしたのかを覚えていない

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