第9話 進化/決着
壁を維持したまま男に接近する。俺と奴の距離は20m前後、対して俺の《
作り出した壁に触れられる位置まで来た。さぁ、ここからは一瞬。
深呼吸して......行くぞ
「あーーーッ!!!」
大声を出しつつあらぬ方向へ向けて指を刺す。
「あ゛?」
奴の視線がーーー逸れた。
「ッ!」
こいつが馬鹿で助かった!
出続ける炎の射線を避け、《
「何もねえじゃねえか!ぶっ殺す......って!?」
こちらの接近に気がついたようだ。しかし......
「遅い!」
(イメージだ、強いイメージを持つんだ)
さっきは無意識とは言え壁を作れた。意識をすれば更に奥に壁を作ることも出来た。ならばその形を変形させる事だって可能な筈!
「オラァァァァァァァ!!!」
男は咄嗟に火力を増して対応してくるが......その体の周りに半球状の光が見えた。
「《
炎を遮るべく前方に1
「ーーー!ーーー!!!」
全方向を覆われた中でも元気よく炎を撒き散らしている。炎系の【異能者(イクシーダー》】だから火には耐性があるのだろうか?
しかし、俺は奴を焼いてやろうと思ってこうした訳ではない。
ドームの中で炎を撒き散らし続けていた男だが......ふと、炎が出なくなった。手のひらからプスプスと小さな火は出るのだが、すぐに消えてしまうのだ。
ーーーそれも当然、あんな狭いドームの中で炎を燃やし続けたらどうなるか......そう、酸素がなくなるに決まってる。
【
しかし、【異能】がなにかしらの事象を起こすタイプ......【事象発生系】の異能の場合は話が異なってくる。
数ある【異能】の分類の中の一つ、【事象発生系】は読んで字の如く『事象』を『発生』させるタイプだ。男の異能もこのタイプ。炎と言う『事象』を『発生』させている。
この【異能】はもともと自然界や人間社会に存在する事象を発生させる異能......端的に言えば既存の技術で可能な事を異能を用いて使っているにすぎない(らしい)。
男の場合もそうだ。炎を出すのに必要なマッチを擦る、火打ち石を打つ、木板を棒で擦るといった過程を【
つまり何が言いたいかと言えば、炎を起こし操作するのには異能を使用しているが、炎を持続させているのは異能の力ではない。炎が燃え続けているのは、火は酸素を消費して燃える、と言う自然現象によるものだ。
ならば【
そして酸素がなくなれば当然火も消えるし、点火し続けることも出来ないと言う訳だ。
このまま覆い続けることが出来れば酸素欠乏症によって戦闘不能に追い込む事も不可能では無いが......
(そろそろ限界か......)
そもそも俺の【
今だって幻坂の【
「......ぐッ!」
激しい頭痛に襲われ、膝をつく。それと同時に《
「
叫んだ瞬間、酸素不足でフラフラになった男の顎が大きく跳ね上がり、体が浮いた。
そして地を踏み鳴らす轟音が響き......その浮いた体が一瞬にしてくの字に折れて吹き飛び、奥にあった柱に追突。そのまま地面に倒れた。
「......ふぅ」
「サンキュー、幻坂」
「こちらこそ。私だけだったらこんなに簡単に済ませられなかったわ。ありがとう」
そう、俺たちの立てた作戦の正体、それは『俺が奴を無力化し、幻坂がとどめを刺す』と言うシンプルなものだ。
やつが延々と火を巻き続けている以上、幻坂が接近して確実に止めを刺すには奴の異能行使を封じる必要がある。故に一度消火する必要があった、という事だ。
「それはそうと......奴を連れてさっさと脱出するぞ」
「それもそうね。煙が予想以上に濃いわ」
さっきも言ったように炎を維持しているのは異能によるものではなくただの化学反応。奴を倒したところで消火されるわけじゃない。
素早く男の元へ近寄り、男の両手のひらを合わせて固定する。
「じゃあ行くわよ、走って!」
最後の無力化処置を行った男の体を幻坂が担ぎ上げ、疾風の如く駆けていく。逆だろとか思われるかもしれないが、俺はまだ【
幻坂の後を慌てて追いかける。だが......
「は、速えぇ......」
男1人を抱えた幻坂に追い縋るのがやっとだ。それでもジリジリと距離が離されていくレベル。
(......【身体強化】、俺も覚えなきゃな)
そう心に決めて走り続け......俺たちは無事にモールの外へと飛び出した。
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