第8話 イメージの具現化

「ついでに思いついたわ。あの男を制圧する作戦も、ね」

「マ、マジか......」

「大マジよ」


 ついに言葉も出てこなくなった。感嘆とはこう言うことを言うのだろう。


「それで、俺は何をしたんだ?」

「【異能ギフト】は人間の第六感が発達した事で空想上、妄想上の事柄を確固たる意思力で定め、それを精神力マインドを用いて現実に出力したもの......ってことは知ってるわね?」

「一応は」


 学園長も言っていたし異能史の授業でもそのようなことを言っていた。


「勿論何でもできるわけじゃない。これは人によって発達した第六感の属性が異なるから。【異能】の大まかな性質や系統が親に似るのはこれのせいなんだけど......ここで異能の根幹をなすものはさっき言った通り『第六感』、つまり視覚 聴覚 味覚 触覚 嗅覚の五つの感覚に続く第六の感覚な訳」

「と言うことは?」

「【異能】も後付けってだけで身体機能の1つって事。だから異能に慣れたり特訓したりすれば成長するのよ。筋トレしたら筋肉がつくように、ね」


 幻坂の例えは分かりやすい。身体機能だから成長する、確かに道理だ。


「筋トレしてから実感が出るほど筋肉がつくまでにはかなり期間があると思うけど【異能】は必ずしもそうとは限らないわ。【異能】と言うものは所詮人の意思力に左右される......だから時に【異能者イクシーダー】の置かれた状況や気の持ち方1つで大きく進化する事があるのよ」


 そう言うと幻坂は手元にマジックか何かのようにピンポン球を出した。


「私も昔は自分の手のひらに小さな幻影1つ出すのが精一杯だったけど......今は違うでしょう?」

「そうだったな」


 幻坂の【異能】はこの身を持って味わっている。透明化、自身と同じ幻影、そして分身......幻影を出せる大きさも射程も当初とは段違いって事だ。


「だったら考えられる事はただ一つ。貴方の【異能ギフト】、【固定ロック】はこの短期間、いえ、自身に訪れた窮地ピンチによって急成長したって事になる」

窮地ピンチで......成長......」


 なんかすごい自分が少年漫画の主人公かのように思えてきた。あいつらっていつも逆境で進化するし。


「さっきの貴方は咄嗟に手のひらから......大体2~3mくらいかしら?そのくらいの距離の空気、あるいは空間そのものを『固定』したのだと思うわ。そして固定された箇所が炎を寄せ付けない壁となった。私はそう見てる」

「あの時は無我夢中だったけど......そう言われてみれば確かに」


 あの時、自身の中から言いようのない感覚がしていた気がする。今思えばアレは無意識に精神力マインドを使って体を守るために壁を作っていたのかも知れない。


「あの不自然な炎に関してはわかった。それで、思いついた作戦ってのは?」

「端的に言うからよく聞きなさい」


 幻坂は淡々と作戦の概要を口にした。


「......ちょいと俺任せすぎませんかね?」

「貴方なら出来ると信じているわ」


 そう言うと不敵に笑う。それを見て俺は......自信ありげな顔が、彼女に1番似合うと思った。


 ......とはいえ、だ。


「いや此処でそんな自信満々の顔されてもなぁ?」

「私だって貴方に負担がかかりすぎてるとは思ってる。でも仕方がないのよ......私の【異能ギフト】とあの男の【異能ギフト】、相性が悪すぎるの」

「相性?」

「ほら、良くあるじゃない?炎は草に強くて草は水に強い、みたいな。それと一緒。私の異能イリュージョンで幻影を出したところで衝撃が加われば霧散する。ああ言う広範囲に干渉できるような能力相手だと分が悪いのよ」

「なるほど」


 能力には相性がある、そんなのは古典レベルの話だったな。


「ならこれが最善って事だな」


 立ち上がって軽くストレッチをする。そろそろあの男が痺れを切らして暴れ始める頃だ。その前に行かなきゃならない。


「えぇ。私なりに最善を追求した結果貴方にかなりの負担がかかる事になっちゃうけれど......お願い出来る?」

「美人にお願いされたら男は何でもやっちまうもんなんだよ」


 我ながらちょっとクサいセリフだとは思う。しかしこんな美人にお願いされてやらないってのは男が廃るね。


「そう、なら他に何をやってもらおうかしら」

「さっきのは嘘だ。取り消す」

「あら、男に二言はないんじゃなかった?」

「言うじゃねえか......まあこの話は後で、終わってからしようか」

「ふふっ、そうね。任せたわよ、編入生れっとうせいさん」

「任せとけ」


 拳を軽く突き合わせた後、俺と幻坂は服飾店から飛び出した。








 任せておけ、とは言ったもののーーーーーーーーー


(正直言って帰りたい)


 こんなのは警察にでも任せておけばいいと言ったんだが、幻坂曰く


『【異能者イクシーダー】は【無能者ノーマル】の上に立つ者、そう言う認識になってるし、している。だから暗黙の了解として、【異能者】が犯罪を犯した時は同じ【異能者】が対応するってのがあるのよ。一種の自浄作用ね』


 と言っていた。全く、傍迷惑な了解だ。

 まあうだうだ言ってても仕方がない。取り敢えず今は......

 走っていた足を止める。俺の目線の先にはさっきのナンパ男。こいつをブチのめす事だけ考えていればいい。

 男はそこら中の店舗に火を放ち、俺たちを炙り出そうとしていたようで、かなり周囲が火の手に包まれ始めている。


「よお、さっきぶりだな」

「テメェは......さっきの訳わかんねえコトやった奴だな?」

「自分じゃ確信はないがそう思うんならそうなんじゃないか?」

「ほざけ、女は何処だ」

「......何処だと思う?」

「殺す!!!!!」


 男はいきなり手のひらから火炎を放出して来た。

 しかしーーー作戦通りだ。煽れば直ぐに【異能ギフト】を使ってくる!


(イメージ、イメージ、イメージ......ッ!)


 心の中でイメージを固める。イメージするのは空間に立つ1枚の壁!


「《空間壁フロント ウォール》!!!」


 即興で考えた技の名前を発声しつつこちらも手を前に突き出す。【異能技イマジン】の発動はイメージが全て。その為、技自体に自身が連想しやすい名前を付けて発声する事で発動速度と技自体の強度を高める事が出来る......幻坂の教えだ。


 今度は勘違いじゃない。体の中でほんの少しずつ何かが無くなっていく感覚、それが手のひらから出て行っていると言うこともわかる。そして何より、目の前に迫っていた火炎がまた空気中で四方に拡散している。

 見た目は勢いよくこちらに向かおうとしているものの、その炎は俺のところまで届く気配がない。つまりは【異能技イマジンが発動したと言う事だ。


 俺の【異能技】、《空間壁フロントウォール》。空間自体を固定する事により、擬似的に壁を作り出す技。生み出した壁が奴の放つ炎を押し留めているのだ。


「お、お前!何やってんだ!?」


 男の顔は明らかに焦燥感に包まれている ......何故だ?


異能者イクシーダー】は戦闘に関する訓練を受けているはず。自分が【異能ギフト】を使って攻撃し、相手がそれを何らかの手段で防いできたことなどごまんとあると思うんだが......?


 まあ良い。俺の役目はこいつの攻撃を防ぎ続けて焦らせ、そして決定的な隙を生み出す事だ。幻坂は透明化した上で近くに待機しており、その隙を伺っている。後はその決定的な隙を作るだけ。


「クッソオオオオオ!!!なんなんだ!なんなんだよテメェ!!!」


 男は叫び続ける。より一層火力は高まっているようだが、俺の作り出した壁を破る事は出来ないようだ。


「オ、オレを誰だと思ってやがる!紅露似苦瑠クロニクルのリーダー、黒岩 火山様だぞ!!!」


 ......えーと、何?くろにくる?なんだそれは。

 まぁそんなことはどうでも良い。視界の奥......くろにくる?の自称リーダー様のさらに向こうで幻坂が準備okのサインを出している。








 さて、そろそろ仕上げと行こうか。

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