2.気だるい時間〈Side.五十嵐誠道〉
友人、
昼休み、食堂で玉子丼を食っていると由季暢は女子の群れを見ながら言った。
「誠道ってイケメンだよねー。ミステリアスっていうの? そういう感じが女子にウケる」
由季暢のイケメン定義はわからない。
「オレなんてさー、女の子から友達感覚にしか思われないんだよねー。いいなー、彼女持ち。うらやましー」
「別に、彼女いるからっていいことは」
「出たー! いいなぁ、オレもそういうこと言ってみてーよ」
「……まぁ、彼女いると安心感あるよな。おまえも早く彼女作れよ」
見栄を張るというより、口が滑りやすいんだよな……はぁ、なんでいつもこんななんだろうな、俺は。場をしらけさせるのが嫌だから、どうしても空気を読んでしまう。
「へぇ。彼女がいると安心感あるんだ」
唐突に背後から女子の声が聞こえた。それは俺の偽装彼女、横山瑞穂。俺たちの後ろの席に座っている。
「ゴフッ」
米が気管に詰まり、俺はすぐに顔を背けた。
「あれー、瑞穂ちゃんだー」
由季暢が無邪気に絡みにいく。すかさず横山は、俺に浴びせた冷ややかさをかき消し、百点満点の笑顔を作った。
こいつも難儀な性格だよな……。
***
放課後はまたあのぎこちない時間がやってくる。横山と一緒に帰るようになってから二ヶ月以上経ったが、手をつないで五分間だけの恋人になるのも自然な流れとなった。
しかし、気の利いた会話ができるはずがなく、結局無言で駅まで送り届けるだけ――
「ねぇ」
ふいに横山が声をかけてきたのは、信号ひとつ渡れば駅につく時だった。
「昼間のあれ、嘘だよね?」
「えっ?」
思わずドギマギしてしまう。あんなクソみたいな発言をしたから余計に恥ずかしい。それに、幻滅されたくない。
「あー、うん。そりゃ、まぁ」
口はまったく素直じゃなかった。
すると、横山が鼻で笑う。
「やっぱりそうだよね」
「当たり前だろ」
「タイプじゃないもんね」
横山はぽつりと冷たく言った。目線を向けても、横山のまっすぐ整った前髪があるだけで、顔を覗き込まないと表情がわからない。
信号が青に変わり、横山は俺の手を引っ張って歩いた。
「それじゃ、また明日」
横山が手を振りほどく。肩にかかる髪の毛がさらっと風に流れ、横山は一切振り返らずにスタスタと駅まで歩いていった。その
タイプじゃないと最初に言ったのは俺だから、強気に出られない。好きにならないと宣言したようなものだ。いまさら横山のことが気になっているなんて言えない。
あいつは、俺のことをどう思ってるんだろう。
もうずっと一緒に帰っているけど、それ以上のことはない。だから、余計に気になってしまう。
あいつが他の誰かと話している現場に居合わせると、なんだかムカついてしまう。俺よりも他の男のほうが横山と距離が近い。それがすごく嫌だ。付き合ってるわけじゃないのに。
だったら、いっそ本当に――
「いやぁ……いまさらだよな」
好きになりました、なんて言えるわけない。
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