昼下がりの二人

みはる

ある冬の日(リアルではもう秋)


 時計は午後二時を回っている。

 よく晴れて雲ひとつなく、空気は冷んやりと顔を刺す。都会の真ん中、高速道路のそばのビルの二階で、男たちは仕事中にもかかわらず、まったりコーヒーブレイク。


「なーんかさぁ、どうなのよこの状況」

「なにが」

「俺らよ。去年のクリスマスからずっと、生殺しじゃん」

「生殺しって?」

「出番がねえってこと。クリスマスったって、だったし」

「は? なんやそれ。なんでクリスマスが九月やねん」

「えぇーもうそっからかよ。っかんだろうが、虚構フィクション現実リアルのハナシだよ。前回、あの長いクリスマスの話を、去年の九月にアップしたってこと」

「ああ、な」

「でもって、現実リアルじゃそっからかれこれ一年経ってて、いまだこの状況。しかもでは、まだ二ヶ月しか経ってねえときてる。どうなってんだよこのスローペース。ジャンプの漫画かよ。俺ら海賊王目指してんの?」

「今さら言うてもしゃあない。もともと筆が遅いんやから」

「にしたってよ。サブキャラのスピンオフに一年以上もかかってんじゃねーよって言いたいね。二宮あいつで一年も持たねえだろフツー。あんな草食系オタク」

「はは、言うてやるな。つーかおまえ、出てるやんか」

「出てるったって電話だぜ。リモートだよリモート、いま流行りの」

「リモートでけっこうええ仕事してるやん」

「知るかよ。それであいつの心ン中でいちいち妬まれてるじゃんかよ。バケットにリンゴ乗せて食っただけでチャラいのなんだの、うっせーっての。おまけにみちるにまでおんなじこと言われて、俺ショックだよ」

「あれ、俺が教えてやったレシピやんな」

「そうだよ、おまえ発信だよ。なのに俺のキャラに悪くデコられて、なんかヒドくない? 傷ついたわ」

「確かに、ちょっと同情する」

「だろ。いい加減、さっさと完結してほしいね」

「ラブコメのはずが、いつのまにかミステリー要素も出てきてるもんな」

「ストーカー事案に連続通り魔だっけ? そもそもメイドカフェの女の子に告られて舞い上っちまってる件がメインじゃねえのか。そこに事件が二つもって、あいつにゃてんこ盛りすぎるんじゃねえの?」

「あと、おまえと一条いちじょうのイザコザもあったな」

「もーそれ大きなお世話なんだよなー」

「それでおまえ、実際のところチョコいくつもらったんや」

「だから、数えてねえよ。要は段ボール二箱分だよ。おまえ見てたろ」

「あの日は一日中甘ったるい匂いがしてたな、この部屋」

「俺んはまだしてる」

「で、もっと親身になってやれよ。一条の部屋探し」

「なってるよ。なってるつもり」

「つもりじゃ伝わらんわー。遠距離恋愛の自覚ないやろおまえ」

「いいんだよ俺たちのことは。それまで展開させたらますます時間がかかる。ストーカー野郎も通り魔も、そのうち飽きてくるんじゃねえか」

「そろそろ佳境に入ってるみたいやけど」

「さてどうなるのかねぇ、あの巨乳のマロンちゃんと」

「え、マロンちゃん巨乳なんか?」

「俺はそう踏んでるね。ああいうタイプはたいてい巨乳だ」

「……羨ましい」

「ああ……おまえの気持ちは分かる」

「!……う、うるさい」

「え、ちょっと待てよ。そういやもう一本スピンオフ書いてたな」

「んー、そうやっけ?」

「とぼけるな。おまえと三上みかみサンの。あれもそうだ」

「でもあれは不定期更新や」

「それでも、さ。ったく、筆が遅いくせに二つも掛け持ちするからこんなに時間かかるんだ」

「まだ二話しかないけど」

「おまえは自分が出てるからいいよ。しかもずーっと彼女とイチャイチャしてるんだもんな、そりゃ楽しいだろうぜ」

「別にそういうわけやない。それにあれ、調理の説明するのんや。料理番組みたいに『三十分煮込んだのがコレです』って出したいわ。麗子れいこも面倒臭そうにしてた」

「と言いながら鼻の下伸ばしてんじゃねえよ」

「うるさい。文句は作者に言え」

「言えるもんなら言いてえよ。それがままならねえからこんな事態になってんだろ」

「まぁな。でも、前作の本編第四部なんか、構想からやとかれこれ九年ほどかかったらしいぞ」

「たった五日の話を九年。だから三十万字なんてボリュームになっちまったんだな。俺、めっちゃ働かされたし」

「そのあいだに作者の生活環境が変わったそうやから、それだけの時間がかかったらしいけど」

「そんなの知んねーよ。それにほら、アレだろ。いつものあのシュミもさ。ますますハマってた」

「はいはい。ね」

「今年デビュー三十周年の、ミュージシャン兼俳優。なんでも、ある年の全国ツアーじゃ、半年のあいだに十八公演参加したって話だ。単純計算で十日に一公演。大阪では四日連続で大阪城ホールに通ったって」

「どうなってるねん、ようチケット取れたな」

「ファン仲間がいるみたいだな。本人曰く、自分を含めて相当の強者揃いだそうだ。可能な限りの枚数取って、お互い誘い合う。しかも転売には決して手を貸さない」

「鉄則やな。一人では難しいやろ」

「出演映画の舞台挨拶や、イメージキャラクターを務める商品のCM撮影イベントなんかもほぼ制覇してるらしいぞ」

「ありがたいなぁ、ファンって」

「だから、その推しが電撃結婚したときは、そりゃもう――」

「絶望の淵に落とされてたな。ロスってやつ」

「家族も見るに耐えなかったそうだ」

「でもそれってどうやねん? まさか自分が結婚できるとでも思ってたわけ? それって相当イタくないか? てか、そもそも自分も既婚者やろ」

「それは言っちゃダメなんだよ。そこはちゃんと分かってるのさ。要は、推しが誰か一人のものになるのが受け入れられねえってことらしい」

「みんなのもの、ってことね。アイドルみたいに」

「そうなんだろうなー。よく分かんねえけど」

「でも、それで言うたら今はどうやねん。今年はライヴやイベントは軒並み中止やろ。その意味では時間はたっぷりあったはずや」

「そうなんだよ、仕事の自粛期間もあったみたいだし。だからいい加減に完結しろよってことなんだよ」 

「そういや、スピンオフに限って時間かかってるよな。本編よりはるかにボリューム小さいはずやのに」

「そこ、おまえも気づいてたか。どうやらスピンオフの場合は割と思いつきでスタートする傾向にあるみてえだな」

「思いつき?」

「ざっくりのストーリーしか決めねえで、とりあえず書いてみよう、って感じらしい」

「で、案の定時間がかかってしまうってか。見切り発車もええとこやな。ノープランの典型的な失敗例や」

「なのに、懲りずにこの先も予定があるらしい」

「スピンオフの?」

「ああ。もはやただの気分転嫁程度に思ってるんじゃねえの」

「長い気分転嫁やなー」

「それでも気長に付き合って読んでくれるありがたい人たちがいるんだから、きっちりやってもらいてえよな」

「確かに」



 男たちは顔を見合わせると、ゆっくりとを見上げた。


「「たのみますよ、みはるさん!」」


 ――言うてくるんかーい! って、あわわ、すいません。お二人とも、今しばらくのご辛抱を。



                   ――終わり―― 



※おことわり:本作はスピンオフ第四弾『それ、ボクにはもったいないお言葉です』の第二十話あたりを執筆中に、言い訳がましく書いたものです――



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昼下がりの二人 みはる @ninninhttr

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