14
誠也と別れ、僕はもう一度大学図書館へ戻った。
先程座っていた椅子に腰かけ、ノートパソコンを起動する。普通なら家に帰ってから作業したいが……此処は常にWi-Fiが通っている。長時間調べるにはうってつけだ。決して通信料がもったいない訳じゃない。
それにしても見つからない。かれこれ一時間以上画面とにらめっこを続けているが、捜査は難航。インターネットの海にも漂っていないとなると、もはやお手上げだ。仮にあったとしても真偽が問われるからあまり信用出来ないけど。
だとしても何一つヒットしないのはおかしい。いよいよ本格的に行き詰ってきた。
「……んあ?」
どうしたものかと考えているとメールが届いていた。マウスを動かし、画面上にホップアップされた通知を押すが……なんだこれ? 件名なし。送信者は世界保健機構。誰かのイタズラか? ノーパソに登録されているメルアドは大学用だし。通知なんて教授からしか来ないはずだ。
……開けてみるか。
カチ、と左クリック。少しだけ待つと本文が中央に映し出された。
『君の知りたい事がここある』
心臓がドキリとする。なんて事ない迷惑メール。だが今の僕には、一番欲する言葉だった。知りたい事。仮に本当だったら殺人鬼の情報を教えてくれるのだろうか。
文章の下にはURL。詐欺の可能性も十分ある。否、その方が圧倒的に高い。……ま、詐欺だったらタスクを消せばどうにかなるし。試しに押してみるか。
ゴミ箱へドラッグ&ドロップする予定だったカーソルを、英語羅列に合わせる。データダウンロード。終了するとメールアプリから別の場所へ飛ばされ、動画が開いた。イヤホンを取り付け、音が外に漏れないようにする。色々準備していると映像が再生された。
「――初めまして。これを見ているという事は、画面越しの君がURLから来たという事だね。今回は無害だからウイルスに感染しないけど、気を付けた方がいい。世の中危険だらけだ」
真っ白な部屋に人が座っている。全身にモザイクがかかり、声も加工されているので正体は分からない。しかし、何処からどう見ても怪しい。
「おっと、話がずれたね。本題に入ろうか。君は何かを嗅ぎ回っているみたいだ。でも手掛かりすら見つからなくて困っている。このままでは零時に間に合わない。そんな哀れな姫を見かねて、メールを送ったのさ。まぁ……こんな事を言った所で信じないだろう。
だが――信じるかは全てお前次第。此処で断られても私に損はない。でも、君は困っているんだろう? なら素直に言う事を聞いた方がいいと思うが。一分待つから、それまでにどうするか決めてくれ」
一々キザな奴。だが、こいつの言う事は的を射ていた。
確かに行き詰っているのは事実。得体のしれないメールも、変な動画を見ているのも普段だったら絶対有り得ない。それに他人の力を借りるのは契約違反。でも……一人じゃどうにもならなかった。その結果が現状を招いた。
虎穴に入らずんばなんとやら、だ。嘘くさい相手だろうがやるしかない。
「……答えは決まったかな? では――」
今度はスマホから通知音が鳴る。メールを開くと地図が映し出された。何処だかも分からない図面に赤いピンが刺さっている。
「今週の土曜日。夜の十一時にこの場所へ来てくれるかな。顔合わせも兼ねて取引をしようじゃないか」
僕の事は完全無視か。バイトもないし、特に用事もないから暇だけど、もし入っていたら休みの連絡を入れなきゃならないんだぞ。急に行けなくなったら店が困るだろ。
「あ、言っておくけどその日以外は許さない。時間に遅れた場合もゲームオーバーだ」
……ハイハイそうですか。
どうやら僕に人権はないらしい。此処まで来たら潔いまである。
「では、また会う日まで」
ブツン、とブラックアウト。これで動画は終わりみたいだ。
それにしても土曜日か。……嫌だな、外に出るとか。だが、グダグダ文句を言っても仕方ない。
軽く頬を叩き、気合を入れ直す。生憎、期限まで数日ある。
やれる事は努力しよう。
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