第13話

 兼六園を見終わった頃、昼食の時間にちょうどいい時間になっていた。


 兼六園を出て、21世紀美術館の方に向けて歩き出すと、すぐに美術館は見えてきた。このまま美術館に行くのだろうかと思っていると、交差点を渡ってすぐに右に曲がって、美術館には入らなかった。どうやら美術館の前に腹ごしらえをするつもりみたいだ。


 2年前に来た時、兼六園を見た僕たちは美術館を見る前に昼食を食べた。その時は土地勘もなく、どこにいけば飲食店があるかもわからなかったため、周囲を歩き回ったあげく同じように美術館の前の交差点を右に曲がって少し歩いたところにあるカフェで食べることにした。そこで食べたエビフライ付きのオムライスがとても美味しくて、おもわず美沙の口に突っ込むようにあーんをした結果、ひどく怒られた思い出がある。


 どうやら今日もそこのお店で食べる気の美沙は迷いのない足取りでお店まで一直線に向かっていった。


 美沙はカフェに入ると入口正面にある2人がけの席に座ってメニューと携帯を交互に見始めた。何を見ているのか気になって、美沙の後ろに回り込んで見てみると、以前来た時に撮った僕の写真だった。エビフライとオムライスを美味しそうに頬張っている僕が映っている。


 美沙は店員さんを呼ぶと、注文を済ませてスマホのアルバムを見始めた。



「あら、以前も来たことがあるの?」



 美沙は突然の声に1度肩を震わせてから振り返ると、お店を経営している夫婦の奥さんが話しかけてきたことに気づく。どうやら、画面に映った写真を見てこのお店に一度来たことがあることに気づいたらしい。



「ごめんなさいね。みるつもりはなかったんだけど、たまたま目に入っちゃって」


「いえ、大丈夫です。」


「それで、以前このお店に来てくれたことがあるの?」


「はい、2年前に1度彼氏と」


「あら、そうなの〜。また来てくれて嬉しいわー。それで、さっきの写真に写ってた男の子が彼氏さんよね?⋯⋯今日は来てないの?」


「⋯⋯はい、彼氏は数ヶ月前に事故で」


「⋯⋯あら、そんなことが⋯⋯。軽々しく聞いちゃいけないことだったわね。ごめんなさい。」


「いえ、大丈夫です」


「あ、オムライスできたみたいだから、今持ってくるわね。少し待ってて」



 そう言って奥さんは厨房の奥に戻るとエビフライの乗ったオムライスを持って戻ってきた。



「はいどうぞ。この味はきっとあなたが前に来た時と変わらないから、彼氏さんとの楽しかった思い出を振り返りながら食べてね」



 優しい眼差しで美沙のことを見つめながらそう言った奥さんの声は美沙を優しく包むような声で、美沙も昔に似た笑顔を浮かべられているような気がした。

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